暗号研究者のMike Reiter氏とMatthew Franklin氏は1997年,「やや信頼できる第三者機関(semi-trusted third party)」と呼ぶ仕組みを使う暗号化プロトコルを発明した。やや信頼できる第三者機関は,「単独で不正を働く可能性はあるが,通信者のいずれとも共謀しない」という性質を持つ。もっと具体的に説明すると,やや信頼できる第三者機関は,通信ネットワーク上のランダムなノードとみなせる。信頼することはできないものの,いずれの通信者とも無関係であり,おおむね適切に振る舞う。

 やや信頼できる第三者機関を利用する“プロトコル”は,あなたが考える以上に普及している。公共の場所で隣の人に「バッグをしばらく見ていてほしい」と頼むことは,やや信頼できる第三者機関を使っている一例だ(このとき頼む相手が“やや信頼できる第三者機関”になる)。レストランのテーブルに1日中置かれたままの調味料を使うときも,やや信頼できる第三者機関に頼ることになる(レストランが“やや信頼できる第三者機関”になる)。バッグを盗まれたり調味料に毒を入れられたりする可能性は確かにあるが,現実にはなかなか起こることではない。見知らぬ人の善意に頼る“プロトコル”はうまく機能している。

 やや信頼できる第三者機関は,アリバイの確保にも役立つ。インターネットには「アリバイと言い訳クラブ」なるものが存在する。仕組みはいたって簡単だ。クラブの会員は――会員といってもメーリング・リストに登録するだけだが――,ほかの会員にアリバイを作ってくれるよう頼める。例えば,医者のふりをして上司に電話をかけてもらう,といったことに使える。家にいる連れ合いに上司を装った人から電話してもらうことも可能だ。連れ合いに化けた人から上司に電話してもらう手もある。目的はどうあれ,ネットで依頼すると誰かが協力者になってくれる。

 もちろん,アリバイをでっち上げたり,でっちあげの協力を約束することは目新しくない。しかしインターネットの匿名性により,意外な効果が生まれる。協力者はどこからともなく現れ,すぐに消えてしまう。その協力者は,あなたの本名さえ知らないかもしれない。協力関係がその場限りであることと,システムが匿名性を備えることから,友人に頼むよりも“ばれる”危険性は少ない。

 もちろんリスクは存在する。「こんなクラブは許せない」と考えるような人物がアリバイ・クラブに多数潜り込み,故意にアリバイを暴露する可能性はある。しかし,こうしたネットワークはおおむね宣伝通り機能するだろう。

 アリバイ・クラブの道徳面と社会的モラルについては触れないでおく。単に私は,セキュリティとの関連性だけに興味がある。

ニュース記事:
http://www.nytimes.com/2004/06/26/technology/...
記事のアーカイブ:
http://sms.ac/corporate/news/...

Copyright (c) 2004 by Bruce Schneier.


◆オリジナル記事「Alibis and the Kindness of Strangers」
「CRYPTO-GRAM August 15, 2004」
「CRYPTO-GRAM August 15, 2004」日本語訳ページ
「CRYPTO-GRAM」日本語訳のバックナンバー・ページ
◆この記事は,Bruce Schneier氏の許可を得て,同氏が執筆および発行するフリーのニュース・レター「CRYPTO-GRAM」の記事を抜粋して日本語化したものです。
◆オリジナルの記事は,「Crypto-Gram Back Issues」でお読みいただけます。CRYPTO-GRAMの購読は「Crypto-Gram Newsletter」のページから申し込めます。
◆日本語訳のバックナンバーは「Crypto-Gram日本語訳」のページからお読みいただけます。