【 第2回 】 松井証券・松井社長,ネット証券を強烈に説く

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新システムは「営業廃止」「ネット参入」と並ぶ決断

 松井証券は5月7日に,新システムに全面移行しました。今までバックオフィス業務(主に約定後の処理)の処理を大和総研に委託していましたが,それを日本フィッツの新システムに切り替えると同時に,フロントオフィス業務(主に約定前の処理)も外為を除いてやはり日本フィッツのシステムに全面委託しましたね。旧システムは前期で約8億円を償却し,今期分を含めて10億円前後の償却を実施します。それほどの費用をかけた新システムの内容を教えてください。

松井 いいでしょう。まずは,5月7日から新しいシステムで,バックとフロントの統合を実施しました。本当にお詫びしなければいけないんですが,移行当日,システム・トラブルでお客さんに非常にご迷惑をかけてしまってね。エクスキューズを言ってもしょうがないんですけど,随分と準備万端整えて,ありとあらゆるテストをやったうえでやったつもりなんですけれども,ちょっと想像を絶するアクセスがありましてね。これは通常のピークの想定をはるかに超えるアクセスがあったんです。

 それは前日にアメリカのマーケットが下げたからですか。

松井 そうじゃなくて,まあ,いろんな理由があるでしょう。とにかく今までのピークの数倍が一度に来たんです。それで,「そんなことは当然想定すべきだったろう」と言われたらそれまでなので,その辺がちょっと見込みが甘くて。そこで,システムそのものは止まらなかったんですけれども,実質的には全然動かないというか,レスポンスが実質的に止まったみたいな。お客さんから見たら,これは完全に止まったということになって,大変なお叱りを受けたし,お怒りになるのは当然だと思います。その後は復旧して,さらにチューンアップするつもりですけれども。

 いずれにしろ,新システムへの全面移行は実はそれなりに考えて,考えて,考え抜いたうえでの決断なんですね。日本フィッツはどちらかというと分散システムを前提にしてやっていますし,そういう意味では既存のシステム会社とちょっと違うんですね。もう一つ違うのは,山一情報システムというか,それを継承していますから,証券のことについてはプロです。我々が知っていることぐらいは彼らも十分承知しているんですね。これはプログラムを作る上で決定的に違います。だから,ある意味ではプログラムというのはアウトソーシングがどんどん進んでいますし,分散ですし,ついちょっと前の囲い込みのプログラムの世界というのは,もうなくなってきていますから。

 そういう中で,松井証券だけが単独で「おれのシステムだ」と言っても・・・。確かにそれは間違いじゃなかったんです,2年前は。でも,時代は変わった。それでシステムをどうするんだということで,随分悩みましてね。それで,なおかつバックとフロントを一体化しないと。T+1(約定の翌日に決済すること)にも対応する必要がある。これからありとあらゆる変革を迎えて,それを機動的にやっていけるのかどうかを悩んだ末,金がかかるけれども思い切って統合する道を選びました。金がかかるというのは,今までやっていた投資がある面では無駄というか,要するに,なくなるわけですね。

 それはフロントの部分のことをおっしゃっている?

松井 フロントも。

 バックは今までもアウトソーシングで手数料を払っていたわけですね。

松井 だから,それも全部連動させるわけですから。

 先ほどの8億の償却は・・・。

松井 これはフロントの部分の償却ですね。もちろん今でも使えるわけですが,バックオフィス・システムと統合することによって,かなりの部分が要らないものになりますね。かなりの額になりますけれども,これをあえてやろうと。そうじゃないと,次のステップにいけないという意味で,思い切ってやったつもりで。これは一つの賭けですね,ある意味では。インターネットに特化しようとか,その前の営業をやめようというときと同じレベルの決断のつもりです。松井証券がそれを初めてやったわけです。将来,この決断というのがどういう意味を持つか,プラスになるのかマイナスになるのか,それは今の時点では分かりませんけれども,いずれ,あのときに松井がこういう決断をしたというのは分かるはずです。そのぐらい重大な決断です,これは。

 我々の存在意義というのは,ブローカーとしてイノベーティブなことをどんどん他社に先駆けることです。我々は少なくともボックスレート(手数料を取引ごとに決めるのではなく1日の約定代金に応じて段階的に決める料金体系)にしろ,信用取引(資金や株券を借りて株式売買を行うこと)にしろ,その他いろんなものについても,すべて松井証券がオリジナルです。ほかのところは全部それをまねしている。じゃあ,これで終わったかというと,そんなことはないです。これからたくさんあるんです,それは。ところがプログラムがネックになって,やりたくてもなかなかできなかった。それが日本フィッツと提携することによって,かなり思い切ったことができる。この環境を整備するというのが,今回のシステム統合の目的です。だから,そういう意味で,日本フィッツも全面的にうちとやりますからね。彼らにとってもビジネス上は非常に大事な決断だったはずなので。そういう意味では,自社内で囲い込んでどうのこうのというんじゃなくて,ネットワークの1つの一環として私は位置づけているつもりですから。かなり思い切った決断のつもりです。

 日本フィッツとは,単なる全面的な委託というレベルを超えていますよね。

松井 それは,私はこういう言い方をしているんですね。デザイナはあくまでも松井証券だと。1つの絵をかくにしても,デザインするのは全部,松井証券だと。ただし,線引きだとか絵付け,これはプロに任せようじゃないかと。我々が下手くそなぶるぶる震える手で線引きしても,ろくな線引きはできない。絵付けだってはみ出る。そんなのだったら,それはプロにやらせればいい。でも,デザインが一番大事です,この絵は。このデザインは我々が考える。ところがデザインをやっても,そのデザインの意味が分からなかったらダメですから。この意味についてはフィッツは重々承知していますから。

 旧・山一証券グループですからね。

松井 だから,そういう意味でちょっと今までの状況から脱皮して,もうワンステップ超えたビジネスモデルを作ろうという意味ですね。