【 第1回 】 マネックス証券・松本社長,大いに語る

4/5ページ
お客さんの声を聞くと言うこと

 ビジネス・パーソンとしての松本さんのお話はこの辺にして,次はマネックス証券社長としての松本大さんに質問させて下さい。この3年間で口座数だけ見ると約20万口座とネット専業証券で最大級ですね。この成長要因をご自身で評価してください。これだけ多くのお客さんが3年間でついたことをどう見ますか。

松本 新しい需要を作りながら30万口座を開拓するというのは、やっぱり難しいと思うんですよね。不可能に近い。逆に,需要があったと。要するに,需要があるところに我々がビジネス・モデルを近づけたというか,持っていったのです。だから,我々は,別に新しいマーケットを作ったのではなくて,新しいマーケットが必然的に生まれてきた中で,そこに待っていたという感じだと思うんですよね。だから,もし要因があるとしたら,それはそういうお客さんの声,つまりマーケットの声みたいなものをちゃんと聞けたことなんだと思います。

 ただ,マーケットを開拓しているわけではないとおっしゃいますが,今まで株とは縁がなかった人がマネックスのお客さんには多いということをよく聞きます。それは市場を開拓したことにはならないですか。

松本 でも,それは我々が開拓したのか,世の中の流れとして初めて取引する人がだんだん生まれてきて……。

 もしかしたら,マネックス証券がなかったら,ほかのネット証券会社に行ったであろう若い人たちが増えてきたということですか。

松本 ええ。というのは,そういう世の中の流れとか要請として,新しくネット証券の取引をしようという人は、どこかで生まれてきている。そこに我々が「じゃあ,こちらにどうぞ」というイメージであって,何もないところにマネックスが市場を開拓したわけではないんだと思います。

 なるほど。マネックス証券は日本にあるネット証券会社の中で口座数が最も多いほうですが,どう評価しますか。「口座数ばかり多くても実がない」という指摘もあります。口座数のことはあまり気にしないですか。

松本 いや,気にしますね。それは何なんでしょうね。やっぱりお客様の声をちゃんと聞いたということ……。

 「お客さんの声」を聞くと一言でおっしゃいますが,どのネット証券会社もお客様の声を聞くべく努力していると思います。マネックス証券が他社と違うのは,何なんでしょうか。具体的に何か一つ二つありますか。

松本 例えば,我々の場合には「オリエンテーションコミティー」という仕組みがあって,毎四半期に1回,実際に当社のお客様20人に集まっていただいて,3~4時間けんけんがくがくで話を聞く機会を持っているんですよね。そういった意味で,ほかの証券会社に比べて,もっと踏み込んだ形でお客様の声を聞こうとしているということは言えると思うんですけど。あとは,お客様から毎日400通くらい寄せられる400通くらいのeメールにも,私も全通に目を通して……。

 全部ですか。

松本 はい。

 1日に400通を全部読むと。

松本 ええ。本当にサーッと。

 それは寝る前とか。

松本 いや,そうすると,量が多くて寝られなくなると思うので。

 時間帯としては「つぶやき」を書く前後ですか。

松本 どこかの時間帯といったら,それは無理なので,いつでも時間があるときに読まなきゃいけないんですけど。1日で読み切れない場合もありますよ。そういうときは,週末にまとめて読むこともあるんですけど。そういったことを繰り返して,ちゃんと話を聞こうとはしていますけど。

 そのような顧客の声を,ホームページのブラッシュ・アップやトラブル。シューティングやサービス向上に反映させるために,現場のスタッフたちにフィードバックするわけですね。

松本 スタッフというか,社員も全員読んでいますけど。みんなで読んでいるので。

「ソニー」ブランドは無意識のうちに効いている

 口座を増やせた要因として,ほかには何がありますか。

松本 要はブランドでしょうね。マネックスという何かしらのブランドが,確立とは言いませんけど,だんだんできつつある。その力というのが口座を増やしてこられた原動力だと思いますけど。

 マネックス証券は筆頭株主がソニーですね。やはりブランドの確立はソニーの力が大きいとお考えですか。

松本 当初はもちろんソニーの部分というのはほとんどだったと思うんですよね。これは,例えば,初めて走るサラブレッドは,初めてレースで走るとき,成績はわからないですよね。そうすると,お父さんとお母さんの馬が何かというので,競馬新聞とかにも右と左に書いてあったりしますよね。そういうので始まって。ただ,何レースか走ってくると,だんだんその馬固有の成績で評価がされるようになってくるわけであって,それと同じだと思うんですよね。ブランド的には会社も最初はやはり「だれが後ろ盾なんですか」というのが大きな部分で,だんだん個体としてのブランドを作ってくるんだと思うんですよ。

 では,今は新しくマネックス証券に口座を持つ人たちは,ソニーがバックだからということは余りないという感じですか。

松本 いや,サブリミナルにあるんだと思うんですけど。

 サブリミナルというのはどういう意味ですか。

松本 意識されないけれども,実は認識しているというレベルでは,とてもあるんだと思うんですけど。

 株取引をする人たちですから,当然,会社のことは相当調べますよね。

松本 まあ,そうですね。

 そうすると,やはりソニーがバックにいるというのは当然調べますよね。だから,そういうのが大きいのかなと思うので,その辺を松本さんがどうお考えだったかというのを知りたかっただけです。