2003年9月8日,米Oracleは企業コンピューティングの統合的なインフラを築くために,新しい概念「エンタープライズ・グリッド」とこれを実現する製品群「Oracle 10g」を発表した。Oracle 10gの“g”は,“Grid”を意味する。エンタープライズ・グリッド実現のための機能を実装し,[1]Oracle Database 10g,[2]Oracle Application Server 10g,[3]Oracle Enterprise Manager 10gという3つの製品を提供していく。

 様々な場所に散在する複数のサーバーやデータベース,ストレージを,ネットワークでつなぎ,全体を1つのシステムのように統合すると同時に,ニーズに応じてリソースを動的に振り分け,システム効率の最大化とTCOの最小化を図る─―これが米Oracleが将来的に目指す“グリッド・コンピューティング”の形だ。

図1●IT環境の変遷
図1●IT環境の変遷
業務システムは,メインフレームからC/S,Webアプリケーションへと変化してきた。ブレード・サーバーをはじめ,オープン系サーバーの処理性能が向上し,グリッドを中心とするシステムの集中・統合という流れが出てきた
 企業システムは,大規模ホストからクライアント/サーバー,Webアプリケーションへとその形態が変化し,時代はグリッドによるシステムの集中・統合へと向かっている(図1[拡大表示])。現在,日本のIT環境を見ると,集中のメリットを理解する企業は多い。しかし,システムの集中化はほとんど進んでいない。

 原因の1つは,ハードウエアのコストの問題である。SMPマシンに代表されるオープン系サーバーの処理性能は格段に向上したが,性能向上とはうらはらにコストは増大の一途をたどっている。一方で,標準的なIAサーバーを並べれば約5分の1のコスト*1で同一性能を実現できるようになってきたが,ブレード・サーバーなどでシステムを集中させようとしても,ミドルウエアが未熟であったり,管理が複雑になったりするのが現状だ。加えて,データベースやアプリケーションを統合するための初期コストが大きいことも集中化を阻害している。

 システムを集中・統合するためには,「安価」「高拡張性」「高可用性」「統合の容易さ」「高管理性」「柔軟性」が必須項目となる。そして,これらの課題を実現するためにOracle 10gが登場した。


グリッドで企業システムを統合

図2●Oracle 10gで実現するエンタープライズ・グリッドの形
図2●Oracle 10gで実現するエンタープライズ・グリッドの形
Oracle Database 10g,Oracle Application Server 10g,Oracle Enterprise Manager 10gという3つの製品群によって,ミドルウエアによるグリッド環境を実現する
 これまでの企業システムは,給与,人事,財務,販売管理などの業務アプリケーションごとに,サーバーやストレージ,データベースなどが分散設置されてきた。しかも,それぞれのシステムの稼働率はばらつきがあり,時期的な動きも一定ではない。もしも稼働率がピークにあるシステムが遊休状態の他システムのリソースを使えれば,会社全体のシステム資産をより効率的に利用でき,投資の最適化が実現する。そのために,科学技術分野で研究が進められていたグリッドをエンタープライズ環境に活かすというのが,Oracle 10gの大きな狙いだ。Oracle 10gにより「データベース・グリッド」「アプリケーション・サーバー・グリッド」「ストレージ・グリッド」のすべての層でリソースを有効利用できる(図2[拡大表示])。

 Oracle 10gでは,想定しているサーバーは安価なブレード・サーバーであり,ストレージも高価なものを必要としていない。ブレード・サーバーにOracle 10gを利用すれば,エンタープライズ・グリッドが自然に構築され,そこに様々な企業システムを集中管理していく(図3[拡大表示],写真1)。これからの情報システム担当者は,「システムを増やす」ことではなく,「システムを“再配置”」するという点に注力し,既存のリソースを使い切ることが目標となる。

図3●Oracle 10gによるシステムのイメージ
図3●Oracle 10gによるシステムのイメージ
従来までの業務システムごとに環境を用意するのではなく,ブレード・サーバーを中心にシステム・リソースを共有化する。必要に応じて,動的にリソースを振り分けていく
写真1●米OracleのAustinデータ・センター
写真1●米OracleのAustinデータ・センター
Oracle Grid Computingによって米Oracleのシステムは実際に運用されている