最近,友人が自動車を買い換えた。これまでずっと愛用していたX社のスポーツ・カーを止め,中堅Y社のワゴンを購入したという。この友人,別にカー・マニアというわけではない。以前なら検討対象すらならなかったY社を選んだ決め手は,ディーラーの営業担当者の対応だったという。

 X社系列のディーラーでは,なじみの担当者がいなくなっており,別の担当者が対応した。ところが「言葉遣いこそ丁寧だが,どうにか高いモデルを売りつけてやろうという魂胆が見え見え。なんだかイヤになった」と友人の弁。

 一方,たまたま入ったY社系列のディーラーは,「大幅値引きもあったけど,質問への応対がてきぱきしていて気持ちよかった。カーナビの相談にも親身に乗ってくれた」そうだ。愛想の良い店員にまるめこまれただけでは,と記者が心配していると,友人は「1カ月後点検のときの対応も親切で,すごく満足してる」と付け加えた。X社系列ディーラーの対応については,「Y社が気に入ってるから,もう買わないだろうな」と記者に漏らした。現場の担当者の不誠実な対応のおかげで,このメーカーは顧客を一人失ったわけだ。

 これを「たった一人のこと」とかたづけるのは簡単である。記者の言いたいのは,「現場の担当者の振る舞い次第で,顧客の満足度は大きく変わる」ということだ。企業情報システムにも,まったく同じことが当てはまる。

現場の失点が顧客満足度を損ねる

 日経コンピュータは1994年から,全国の大手,中堅・中小企業の情報システム担当者を対象に,分野別のベンダー満足度を調査している。10回を迎えた今回の調査は今年5月に実施した。調査対象は全国の証券取引所に上場している企業,および年間売上高が100億円以上(流通業は200億円以上)の未上場企業。対象企業数は1万2631社,有効回答数は1535社である。システム構築/運用サービスからハード,ソフト,ネットワークまで,全22分野の満足度を調べた。

 今回はこれまでと少し趣向を変えて,調査結果を徹底分析するとともに,回答企業へ追加取材を実施。ベンダーのどういった点に不満を抱いているのかを聞き取り調査した。ユーザー企業の満足度を左右するポイントは何かを,より明確にするためだ。

 その結果分かったのは,現場の担当者の言動が,顧客満足度を大きく変えるという事実だ。

 ここ数年,ITベンダー各社は「顧客第一」を掲げ,顧客満足度向上に取り組んできた。「お客様とともに」,「すべてのお客様に最適なソリューションを」---。自社の基本理念として,あるいは社長からのメッセージとして顔写真付きで,ITベンダーのWebサイトには,こうした言葉が踊る。

 その結果,どのベンダーも一定水準のサービスを提供できるようにはなっている。同時にユーザー企業の目も肥えてきている。

 現場でのささいな対応の不備で,顧客は簡単にITベンダーを見放すようになっている。「ユーザー企業と直に接するSEや営業は,我々からすればITベンダーの顔ともいえる存在。いくらトップが立派なことを言っても,現場の対応一つでイメージは悪化する」(流通業)。回答企業が寄せたこの意見は,顧客満足度の本質を言い当てている。

こんなベンダーは嫌われる

 第10回顧客満足度調査で寄せられた回答を分析してみると,現場では依然として,ベンダーのスローガンとは裏腹の,惨憺たる対応がまかり通っていることが分かった。プロと呼ぶにはほど遠いスキルしか持たないSE,受注を獲得することにしか興味のない営業,ビジネス・マナーをわきまえない担当者・・・。これらは,いわば「嫌われるベンダーの条件」である。

 取材で聞いた例を紹介しよう。ある流通業A社では2003年秋に,付き合いのあるインテグレータに,Windows2000 ServerとActive Directoryを使ったネットワーク・インフラの構築を依頼した。ところが,担当のSEは現場でマニュアルを見ながら悪戦苦闘。納品も雑で,途中経過の報告書もなかったという。できあがったネットワーク環境もバグだらけで、ネットワークにログオンできない事態が多発した。

 当然,A社は担当SEに,原因を究明して速やかに復旧させるよう依頼したが,いくら調べても原因は不明のまま。とうとう担当SEが「ギブアップ」してしまった。たまりかねたA社は,担当SEを変更するよう,インテグレータに依頼した。A社の情報システム部員である山田氏(仮名)によると,交代で来たSEは「ずいぶん良い対応」だという。

 山田氏は,「たまにインテグレータの品質保証部門が顧客満足度を調査しにくるが,現場にフィードバックできているのか疑問」と指摘する。さらに「インテグレータのトップが雑誌の記事で,顧客満足度第一を掲げたスローガンを披露していたが,現場のSEはそれをまったく知らなかった。これではかけ声倒れでしかない」。

 「たまたまレベルの低い担当者に当たっただけではないか」。こんな見方もあるだろう。しかし,回答結果を見る限り,これは決して特別なケースではなかった。ベンダー各社は,さらなる顧客満足度向上に向けて,現場の「失点」を防ぐ努力をすべきだろう。ユーザー企業も,ベンダーの看板やうたい文句にとらわれず,ベンダーの実力を見定める必要がある。

 なお,第10回顧客満足度調査の概要は,弊誌Webサイトに掲載している。ぜひご覧いただきたい。

(玉置 亮太=日経コンピュータ)