日経コミュニケーションの8月1日号で「災害発生!でも業務は止められない」という特集記事を執筆した。

 その過程で,10年前の阪神淡路大震災,昨年10月の新潟県中越地震,そして昨年7月の新潟・三条の水害に被災した企業や官公庁の方に,情報システム復興への取り組みについて取材をさせていただいた。各取材先の方々は災害を教訓として,連絡手段や情報システムの改善など様々な対策を打っていた。

 ところが,この特集記事を印刷に出した後の7月23日午後4時35分ごろ,千葉県北西部を震源とする最大震度5強の地震が関東地方を襲った(参考記事)。東京都(島しょ部を除く)で震度5を観測したのは1992年以来の実に13年ぶり。久しぶりの強い揺れで,エレベータ内への閉じ込めや鉄道の長時間のストップなど災害に弱い都市部の生活インフラが浮き彫りとなった。

 そして,携帯電話でも新たな課題が浮かんできた。特集記事に盛り込むことはできなかったため,ここできちんと紹介したいと思う。

 携帯電話は今回の地震によって,音声通話が使いづらくなるというだけでなく,メールも使いづらくなる,ということが問題となった。

 阪神淡路大震災では,携帯電話が使える連絡手段として重宝された。加入者数が今よりもずっと少なかったからだ。NTTドコモの場合でユーザー数が今の約25分の1。ネットワークに十分な余裕があった。

 一方,新潟県中越地震では,固定電話とともに携帯電話の音声通話が使いづらい事態となった。NTTドコモの場合で最大8割近くに規制がかけられ,10回のうち2回ぐらいしかつながらない状態が続いた。ただし,携帯電話のメールは制限なく使えることが多数報告され,携帯メールの災害活用に注目が集まった。

 これには訳がある。実は,NTTドコモは新潟県中越地震の半年前に携帯電話端末の音声網とデータ網の制御を分離していた。震災当時,メールで利用するデータ網には制限をかけなかったのだ。筆者が当時新潟を取材した際(参考記事),ほとんどの方がNTTドコモの端末を使っており,実際にメールが使えたと証言してくれた。ボーダフォンも2002年にパケット通信機能を導入した際に分離制御を導入している(注1)

注1:新潟県中越地震の際,ボーダフォンは規制のしきい値をこえなかったため,通話とメールともに制限をかけなかった。

 ところが,大都市圏を襲った千葉の地震では,これらの常識も覆された。

3Gは音声とデータを一緒に制御

 地震後,携帯電話のメールがつながりにくいことが多数報告されたのだ。その理由は,第3世代の携帯電話が新潟よりも多く普及し,使われていたからだ。

 実は,第3世代はメールの分離制限に対応していない。

 このことは,NTTドコモ,KDDI(au),ボーダフォンの3社に共通している。つまり,「FOMA」,「Vodafone 3G」,KDDIの大部分を占める「CDMA 1X」の端末は,音声がかかりにくい時はメールも送りにくくなる。80%の規制がかけられれば,10回の送信操作で2回のメールが送信できるという状況だ。

 これに対して,新潟では取材先の多くの方がNTTドコモかつ第2世代の端末を使っていた。このため,制限を回避できていたのだ。

 では,災害時の連絡手段をどう確保すればいいのか——。NTTドコモやボーダフォンの第2世代の端末を購入するという手もあるが,今後は第3世代の携帯電話に最新機能が搭載されていくのは確実。NTTドコモが第2世代は端末の開発を終了する方針との報道もされはじめた。場合によっては第2世代の端末が入手できなくなる場合もあるだろう。

 ここで,考えうるいくつかの手段を見ていきたい。

選択肢:その1 携帯事業者の対応を待つ

 そもそもなぜ第2世代が対応していて,それを高度化した第3世代が対応していないのか。

 地震後の月曜日に書いた速報記事でも,読者の方が疑問を投げかけている。

 大前提として,「採用している第3世代の国際標準が分離制御に対応していない」(NTTドコモ,ボーダフォン)ということがある。NTTドコモとボーダフォンは,「W-CDMA」という同じ国際標準をベースに,それぞれ個別に開発している。

 ただし,独自に対応する動きは出てきている。第3世代の別の国際標準「cdma2000 1x」を採用するKDDIは「この春に投入した端末から分離制御に対応させている。網側の対応はユーザーのニーズなどを見て検討しているところ」と明かす。

 NTTドコモも7月29日の会見で中村維夫社長が「来年春には対応する」と明言しており,ボーダフォンは「時期は未定だが,対応する方向で検討中」としている。

 つまり,第3世代の端末でも,近い将来に対応するという方向が見えてきた。なお,現時点でもKDDIの第3世代の新サービス,「CDMA 1X WIN」は,対応基地局ではデータと音声を分離して制御できる。