Webサイトやオフィス文書の表示,パケット料・通話料の定額制,不正アクセスや情報漏えいへの対策――。オフィスや家庭のパソコンでは当たり前になったこうした利用環境が,携帯電話などのモバイル環境でも現実のものになってきた。

 企業に向けてモバイル・ソリューションの実務情報を提供する「ケータイ on Business」は,Webサイトに掲載した記事へのアクセス数を2005年1月~6月の半年間で集計。その結果,ランキングの上位には,(1)フル・ブラウザ端末とスマートフォンの動向,(2)携帯電話/PHSの通話・データ通信の料金詳細,(3)モバイル端末のセキュリティ対策ノウハウ――の解説記事が並んだ(ランキング表はこちら)。

 個々の動向やノウハウの詳細は各記事に譲り,以下ではこうした注目度が高い分野のソリューションを利用する際の注意点をいくつか挙げておこう。

携帯電話をPC代わりに使うには定額制が不可欠だが・・・

 パソコン向けWebサイトのレイアウトを崩さずに画像を含めて正しく表示できる「フル・ブラウザ」。Word,Excel,PowerPoint,PDFといったファイルを表示できるオフィス文書ビューア機能。これらを装備した携帯電話/PHS端末は,ともに2004年末以降,急速に対応機種が増えた。

 フル・ブラウザ端末の先駆けは,2004年5月にウィルコム(当時DDIポケット)が発売した京セラ製のPHS端末。その後,2004年末にKDDI(au)とボーダフォンが対応端末を相次いで発売。NTTドコモも,この6~7月に発売にこぎ着けた。「jigブラウザ」など,携帯電話にダウンロードして使えるサード・パーティ製のフル・ブラウザ・アプリも複数登場している。メールに添付されたオフィス文書のビューア機能も,2004年末から携帯電話事業者が相次いで対応端末/サービスの提供を始めた。

 フル・ブラウザやオフィス文書ビューアがあれば,出先で携帯電話/PHSをパソコン代わりに使える場面が増える。オフィス文書の編集はできなくても,閲覧さえできれば相手に修正個所を伝えられる。また,パソコン用Webサイトにアクセスできると,いつでもどこでもインターネット上の情報サイトや検索サイトが使えるし,システム担当者なら社内システムの緊急リモート・メンテナンスにも応用可能だ。

 ただ,注意しなければならないのが,パケット定額制が使えるかどうかや,その際の制約条件が,各社各様で分かりにくいことである。画像を多く含むWebページやオフィス文書にアクセスする機会が増えるだけに,通信コストの上昇などに十分気を配る必要がある。

 例えばウィルコム,KDDI,ボーダフォンのフル・ブラウザ標準搭載端末はパケット定額で利用できるものの,ウィルコムでは256kビット/秒の最速サービスに対応した端末が未発売であり,ボーダフォンでは1ページ当たり300Kバイトまでの制限がつく。

 一方,NTTドコモがFOMAに標準装備したフル・ブラウザには,パケット定額制が適用されない。定額で使うには,サード・パーティ製のアプリを利用するか,無線LANにも対応した「FOMA M1000」で定額料金の公衆無線LANサービスを利用する必要がある。

 オフィス文書ビューアでは,パケット定額制が適用されるソリューションが多いが,KDDIの定額制には1日3Mバイトの上限が設定されている。

 こうした分かりにくさは,もとをただせば有限の資源である無線周波数を定額で利用できるようにするために,サービス事業者各社が工夫を凝らした結果。サービスが始まったばかりの現時点で,非難するには当たらない。利用条件を十分吟味して,自社に適したサービス/端末/料金プランを選ぶのが賢い使い方だ。

 また,電話機型端末と同様に,ノート・パソコンやPDA(携帯情報端末)のスロットに挿して使うデータ通信カードでも,利用できる料金体系には注意が欠かせない。ウィルコムのPHSカードが定額制で使えるのに対し,携帯電話3事業者のデータ通信カードはいずれも従量制の料金プランしかない。通信量に応じた最適なパケット割引プランを選ぶことになる。

無線の不感地帯が減れば端末のセキュリティは高まる

 フル・ブラウザや通信料金とは異なる分野ながら,アクセス数ランキングで4位と上位に食い込んだのが,モバイル端末からの情報漏えい対策を解説した記事である。4月に個人情報保護法が完全施行され,モバイル・システムでは特に持ち歩く端末の紛失・盗難に伴う情報漏えいに対して危機感が高まった。

 端末内にある情報の流出を防ぐ典型的な方法は,ユーザー認証やデータの暗号化。第三者が端末を操作できないようにしたり,ハードディスクなどを抜き取ってもデータを解読できないようにする。端末が携帯電話/PHSの場合には,インターネット経由で会社やサービス事業者のセンターから信号を送り,端末内の顧客情報などを消去するソリューションもある。すでに,KDDI,ウィルコム,ボーダフォン,NTTドコモが提供を始めた。

 持ち歩くモバイル端末には初めから情報を蓄積しないという選択肢もある。アプリケーションやデータはセンターに置いておき,処理結果の画面情報だけを端末側で受け取る。端末上にはデータが残らないので,紛失しても情報が漏れる恐れはない。ノート・パソコンだけでなく,携帯電話上にパソコン画面を表示するソリューションも登場している。

 もっとも,端末内のデータをリモート操作で消す手法にしても,センターにあるアプリケーションやデータを使う手法にしても,端末が無線サービスのエリア内にあることが条件となる。無線が届かない不感地帯では,ネットワークに依存したセキュリティ対策は効果を発揮しない。

 この意味で,携帯電話やPHSの不感地帯が減れば,端末の安全性を高めやすくなると言える。利用できるセキュリティ対策の選択肢が広がり,複数の手法を組み合わせられるようになるからだ。

 例えば,NTTドコモ,KDDI,ツーカーセルラー東京,ボーダフォンの4社が6月から共同で提供を始めた「事業者共同中継装置(ブースター)」。都心部の地下街やビル内店舗といった不感地帯を減らす役割を担う。こうした場所にある飲食店などを顧客とする飲料メーカーなどの営業支援システムにとっては,好都合だろう。

 また,NTTドコモは山間部でのFOMAの不感地帯を減らすために,通常の2GHz帯に加えて800MHz帯を併用する「FOMAプラスエリア」の展開を始めた。ボーダフォンも「Vodafone 3G」の無線基地局の増設を屋外・屋内ともに加速させている。

 無線が届くエリアが広がることで,ネットワークを活用したモバイル端末のセキュリティ対策は,実効性が向上する。端末単体での対策とネットワークと連携した対策を組み合わせたソリューションの充実も期待できる。

2005年下期はどうなる?

 では,2005年下期にビジネス・パーソンの関心を呼びそうなテーマは何か。筆者は,“おサイフケータイ”,モバイル・セントレックス,公衆無線LANサービスあたりに注目している。

 非接触IC「モバイルFeliCa ICチップ」を搭載した“おサイフケータイ”は,先行したNTTドコモに続いて,9月にKDDIが,10月ころにボーダフォンが発売する。大手3社から端末が出そろえば,ビジネス活用に拍車がかかるはず。コンシューマ向けサービスを提供する企業を対象にしたCRM(顧客情報管理)ソリューションなどの品ぞろえも充実してくるだろう。

 また,モバイル・セントレックスと公衆無線LANサービスは,すでに製品やサービスがあるものの,ともに本格普及はこれからという段階。使い勝手,セキュリティ,業務上の効果といった実務面の情報ニーズがより高まるのではないだろうか。

(井出 一仁=ケータイ on Business)