図2●プロマネ以外の意識
「プロマネ以外の職にある」と回答した593人(全回答者の48.3%)の回答を集計した(図をクリックして拡大表示)
 プロマネ以外の職にある回答者593人に,将来の志望を質問したところ,プロマネ志望との回答は,わずか9.1%。実に73.0%が「プロマネにはなりたくない」と回答した(図2[拡大表示])。この回答に,年代による偏りはない。なおアンケートの全回答者の年齢構成は,30代が54.7%と最も多かった。これに40代(23.7%),20代(17.8%)が続く。

 「プロマネにはなりたくない」という層にその理由を聞いたところ,特に回答が多かったのは,報酬の少なさやサポート体制への不満など。プロマネ自身が挙げた不満とほぼ同じである。プロマネ“予備軍”たちは,プロマネの現実を冷静に観察している。

 実際,記者が取材した若手エンジニアからは,「プロマネにはなりたくない」という声がよく聞かれた。「最近の若手の人気職種は,コンサルタントかアーキテクト。プロマネ志望は少数派に転落した」(メインフレーマの人事担当者)との証言もある。

はやる企業,さめる現場

 その一方で,IT業界全体の「プロジェクトマネジメント熱」は,収まる気配がない。各社はSIビジネスの収益力向上に向けて,プロマネ育成に全力を挙げている。

 熱気を象徴するのが,プロマネの国際資格「PMP」の国内における取得者数。ここ5年間で9倍に増え,年内には1万人の大台を突破する見通しである。各企業では,プロマネ向けにPMP取得のための講座を開催し,PMPの取得を促している。

 プロマネ育成に躍起になる企業側。疲弊する一方の現場。この落差が,“プロマネ残酷物語”を助長している。

 取材では,多くの企業が「当社ではプロマネは花形職種の一つ」と念を押した。「プロマネが恵まれていない,などという記事を書いて,不満を持った一部のプロマネを煽るのは止めてほしい」と申し出た企業もあった。

 4年ほど前,私は「ITプロフェッショナルを襲う心の病」という特集記事を書いた(関連記事)。「ごく少数の人のことを,さも大ごとだと取り上げるのは止めてほしい」。ある企業の担当者からこう言われたことをいまでも覚えている。

 「プロマネ残酷物語も,ITプロフェッショナルを襲う心の病も,IT業界のある一面を描写するものでしかない」。こう考えられなくもない。しかしそのようにして,問題を単純に切り捨てるのは危険だ。いつの間にか事態が深刻化し,取り返しがつかなくなりかねない。

 今回の取材では,その企業で特に優秀と言われるプロマネにも会って話を聞いた。プロマネらはアンケート調査の結果に同意を示し,その上でプロマネを巡る問題について熱く語ってくれた。熟練のプロマネほど,自分と同士を取り巻く“闇”に敏感だ。

 プロマネを取り巻く闇の領域をこのまま放置していたら,プロマネのなり手は減る一方だ。行き着く先にあるのは,「プロジェクトは破綻」「顧客はビジネスに失敗」「プロジェクト・メンバーは心身ともに消耗する」という,負の連鎖である。自由意見欄に寄せられた次の意見が,問題の本質を言い当てているような気がしてならない。

 「会社の計数目標を達成するには,プロジェクトに単価の安い下請けベンダーを入れるしかない。その結果,スキルのない下請けの若手を『プロマネ』に仕立てて,客先に送り込んでいるのが現状だ。これではプロジェクトがうまくいくわけがない。能力以上の責任を負わされた若手も,つぶれてしまう。プロマネ問題は,IT業界の構造的な問題を象徴している」
(ベンダー勤務,50代,プロマネ職)

 企業側はこうした状況について,決して見て見ぬ振りをしているわけではない。大手企業を中心に,PMOの改革や,報酬制度の改変などの対策が始まっている。現役プロマネの2人に1人が仕事にやりがいを感じているいまこそ,「プロマネ残酷物語」に終止符を打つチャンスだ。早急に着手しないと,本当に手遅れになってしまう。

(高下 義弘=日経コンピュータ)