企業のシステム投資が,今後急激に減速する可能性が出てきた。2005年度の情報システム投資は,予算上は2004年度の投資額を上回る企業が多く,好調と言ってよい。しかし,投資意欲がさらに高まりそうな気配は感じられない。システム投資はここのところ回復から拡大傾向と見られたが,好調さは長続きしそうにない。

半年後の投資意欲は減退傾向

図1●国内企業のシステム総投資額の増減(2005年4月調査)
2005年度のシステム総投資額を2004年度より増やす企業が47.6%に上り,減額企業(26.6%)を20ポイントあまり上回った。しかし,2006年度は状況が大きく変化。増加企業と減少企業が同程度になる。無回答を除く。
 日経マーケット・アクセスが実施した調査「企業情報システムの投資・利用実態2005-2006(第1回)」(注1)によると,2005年度のシステム総投資額(注2)(予算)を2004年度の投資額より増やした企業は半数近い47.6%に上った(図1)。減額企業(26.6%)より21ポイントも多い数字である。

注1:国内企業の情報システム担当者を対象として,2005年4月に郵送法で実施した。発送数は4038,うち622社(15.4%)から回答を得た。回答企業の43.7%が製造業で,建設・サービス業などが28.1%だった。従業員数は1000人以上が25.2%で,300人以上1000人未満が34.3%である。日経マーケット・アクセスでは,本調査の集計結果を含む報告書を発行した。
注2:システム総投資額には,ハードウエア,ソフトウエア,ネットワークに関する費用のほか,情報システム部員の人件費なども含む。

 ところが,2006年度の見通しになると大きく変わる。システム総投資額を2005年度に比べて増やすという企業は30.3%で,減らす企業と同程度にとどまった。半数近くの企業が2005年度は増加すると答えたのとは,明らかに異なる傾向だ。

 システム投資に対する変化は,投資意欲が高まるかどうかを感覚的に尋ねた結果からも浮かび上がった。回答企業のうち,半年後のシステム投資意欲が現在よりも高まりそうだと思う企業は23.2%にとどまり,高まるとは思わない企業が30.0%と上回った。システム投資に減速感が漂い始めたのは,景気の先行きに対する不透明さが大きく影響を与えているようだ。

好調なハイテク業界でさえ今年度がピーク,来年度は急降下

 企業のシステム投資に対する意欲は,業種によってかなり大きな違いがある。今回の調査によれば,2005年度は建設業を除く非製造業と,電機・精密機械などの一部の製造業が好調だ。サービス業は,実にその6割が2005年度のシステム総投資額を前年より増やすと答えた。流通業は5割が増加である。金融業も増加傾向が続いていると見られる。

 電機・精密機械業界は,デジタル家電ブームの影響もあり意欲的に投資してきた。2005年度は6割がシステム投資額を増やす。その他の製造業(増額企業は4割強)を大きく上回る結果だ。

 しかし,2006年度になると様子はガラリと変わる。電機・精密機械業界で,2005年度よりシステム総投資額を増やす予定の企業は18.4%に過ぎない。2006年度は減少すると考える企業が42.1%と倍以上多かった。電機・精密機械ほど急激な変化ではないが,他の業種でも2006年度のシステム投資にはやや慎重な姿勢(注3)がうかがえる。

注3:今回の調査では,建設・土木業界だけは少し異なる傾向を示した。建設・土木では,2005年度のシステム総投資額(予算)を前年より減らす企業が5割近くに上り,逆に2006年度は増えるという企業がやや多かった。

拡大するソフト/サービスの比重

 企業のシステム投資は,ハードウエアの比重が減少し,代わってソフトウエアやサービスの構成比が増えてきた。今回の調査でも,回答企業が2005年度に支払うシステム費用のうち,ソフト/サービス比率を2004年度より上げるとした企業は36.0%と,減らす企業の倍に上った。これに対して,ハードウエアの構成比は32.9%の企業が2005年度に減らし,増やす企業を14ポイント上回った。

 こうした傾向は,法人企業統計調査の設備投資額からも推察できる。企業のソフトウエア投資額はここ数年,前年同期比10~20%程度伸びている。

 ソフトウエアに対する投資意欲は強い。中でも,いわゆる情報系に対する関心が高い。例えば,2005年度の重点投資項目としてEIP(企業情報ポータル)関連ソフトを挙げた企業は9.2%と,2004年度を6.1ポイント上回った。ナレッジ・マネジメント(KM)やデータ・ウエアハウス(DWH)関連のソフトも,2005年度中により多くの企業が投資したいと考えている。

 ただし,1年前の2004年に実施した調査と比較すると,別の側面が見えてくる(注4)。EIPやKMといったソフトウエアは,1年前の調査でも同様に「今年度は重点的に投資したい」と答えていたのである。1年たって実際にはどうだったか。見込みほど重点を置いた企業が増えていない。例えば,EIPは1年前の2004年調査で,10.8%の企業が2004年度に重点投資したいと答えた。しかし,今回の調査で,2004年度に(実際に)重点を置いた企業はわずか3.1%に過ぎなかった。前年調査で2003年度に重点投資したと答えた企業(5.9%)にも及ばなかった。ユーザー企業の関心と実際の行動は一致するとは限らない。

注4:今回と1年前の調査で,回答企業は同一ではない。しかし業種や企業規模に大きな違いはなく,一定レベルの比較は可能と見ている。

 こうした観点から改めて結果を見ると,実際に重点投資した企業が増えたのは,データベース(DB)ソフトである。2004年の調査で,2003年度にDBソフトに重点投資した企業は15.4%だったが,今回の調査で2004年度に重点を置いた企業は5ポイント増の20.4%だった。

 業務アプリケーション分野でも,ソフトウエアと同様の現象が起こっている。ユーザー企業は情報系システムなど,あれこれ多くのことに取り組みたいと考えている。しかし,実際の投資対象にはならないケースがある。もっとも,いつかは投資につながるという見方もできなくはない。

インターネットVPN,セキュリティへの関心は強まる

 アプリケーション・ソフトへの投資で計画や関心と実際の投資にズレが見られたように,ネットワークへの投資でもユーザー企業の関心と実際の行動は完全には一致していなかった。2004年度に重点投資したネットワーク分野を尋ねたところ,IP-VPNを挙げた企業が30.5%と最も多かった。

 実は1年前の調査で,IP-VPNに対する関心は既に峠を越えていた。IP-VPNに2003年度に重点投資した企業は34.7%。対して,2004年度に重点を置くと当時考えていた企業は20.5%に過ぎなかった。ところが,今回の調査で2004年度にIP-VPNに重点投資した企業は3割に上った。

 ただ行動とのタイムラグは存在するものの,企業の関心がIP-VPNからインターネットVPNなどへ徐々に移ってきているのは間違いない。今回の調査でインターネットVPNに2004年度に重点を置いた企業は25.7%。前年調査より4ポイント近くの増加である。2005年度も,26.7%とわずかだが増加傾向にある。

 企業にとってネットワークも重要だが,現在の最大の関心事はセキュリティ対策である。とりわけ情報漏えい対策と個人情報保護が重要だ。「社員などからの情報漏えいへの対策」を,2004年度に重点投資分野としていた企業は21.1%だったのに対して,2005年度は52.3%にまで増加した。「個人情報保護法への対応」も2005年度に重視する企業が2004年度よりはるかに多かった。

(松井 一郎=日経マーケット・アクセス 編集委員)

■この記事は,日経マーケット・アクセス2005年7月号より転載したものです。