「2008年2月期決算までに,(150社以上ある)グループの主要企業すべての本社と店舗にシェアード・サービス向けのITインフラを入れたい。すでに経理業務で20社程度,人事・給与業務で十数社をカバーしている」(イオンの縣厚伸・常務執行役IT担当)――

 いま,「シェアード・サービス」がひそかなブームだ。ここ1~2年だけを振り返っても,イオン,ヤマト運輸,鹿島建設,新日本石油,サッポロビール,旭硝子など大手企業が続々とこの経営手法に取り組みだしている。

 シェアード・サービスは,1つの企業グループ内で発生する経理や人事,総務といった間接業務の処理を1社に集約する手法である。支社や工場,店舗など複数拠点の間接業務処理を本社にある1部門に代行させる形態も,シェアード・サービスの1つだ。業務処理を集約することによって,人件費の削減や業務品質の向上などを狙う。

グループ経営とITインフラが後押し

 シェアード・サービスが米国から日本に本格的に“上陸”したのは1999年~2000年ごろ。当時,経済紙(誌)などでシェアード・サービスという見出しのついた記事をよく見かけた。導入に踏み切る日本企業が多かったからだ。しかし,短期間で大きな成果を出せた企業はほとんどなく,シェアード・サービスという言葉を紙面で見る機会は減っていった。

 ところが,今年になって関連取材を続けてみたところ,実際にはシェアード・サービスに取り組む企業の数は増加傾向にある印象を受けた。

 再ブームの兆しが見えてきた最大の理由は,グループ経営を重視する企業が増えた点にある。冒頭のイオンもきっかけはこれだ。「5~6年前からグループ・マネジメント改革に着手。狙いは,ステークホルダーに対する説明責任体制の強化,各種業務の効率化と品質向上などにある。まずは先行して物流とマーチャンダイジングの仕組みをグループで共通化してきた。シェアード・サービスへの取り組みも『グループ共通インフラを作ろう』という流れのなかから生まれた」(イオンの縣氏)

 さらに,通信サービスの利用料が大幅に低廉化して多くの企業が全拠点を結ぶ高速通信ネットワークを構築できるようになった点や,数年前のERPパッケージ(統合業務パッケージ)ブームで大手各社の本社に独SAPの「R/3」などが導入された点も見逃せない。シェアード・サービスにはITインフラが欠かせないからだ。

 例えば,紙ではなくイントラネットで経費精算をできるようにすれば,申請内容のチェックなどの業務は本社に集約できる。「現場の経理担当者が部署内の申請書を集めて正誤確認をした後,本社に送る」といった手間は省ける。

 イオンの場合,まず2003年8月にR/3を使った経理業務のシェアード・サービス・システムを稼働。イオンの1部門である「業務受託センター」で現在,グループ20社程度の経理業務を代行している。さらに2004年12月には人事・給与業務のシェアード・サービスの提供もスタート。十数社が利用中だ。これら2つのシェアード・サービスの導入にともない,ホスト・コンピュータを使った情報システムをWebサーバーを使うものに刷新。イントラネットを使って,社員が業務受託センターに直接申請できるようにした。その結果,店舗の後方業務担当者を減らしたり,システム運用・変更を各社バラバラに実施せずにすむようになった。

日本的解釈が進んだのではないか

 典型的な日本企業から見るとシェアード・サービスは課題も多い。米国企業のように大幅な人員削減策を併用しなければ,短期に大きなコスト削減効果を出すのは難しい。また,シェアード・サービス導入前に現場と間接部門の両方でBPR(ビジネス・プロセス・リエンジニアリング)をきっちり実施しておかなければ,導入後に現場が混乱したり,間接業務の品質が低下しかねない。社員1人ひとりの業務範囲が明確な米国企業と比べると,日本企業はBPRが苦手だ。

 再ブームの背景には,シェアード・サービスに対する日本企業の意識の変化もあるのだろう。第1次ブームの際は,シェアード・サービス・センターを分社してサービスを外販し,すぐにでも利益を上げようと考える企業が多かった。大胆なリストラ策など断行できないのにもかかわらず,早急にコスト削減効果を得ようと目論む企業も目立った。そうした企業の大半は軌道修正を迫られたに違いない。
 
 現在は,「じっくりと腰をすえて,まずグループ内で確実に成果を出していく」と考える企業が増えた。日本ではシェアード・サービスは即効薬ではなく,長期的なビジョンを持つ企業に有効な手法なのである。

(杉山 泰一=日経情報ストラテジー)