最近,筆者はユーザー企業やコンサルタントを取材するたびに,決まって水を向ける話題がある。それは,「CIO(最高情報責任者)は,インフォメーション・オフィサーのチーフであるはずだが,では,インフォメーション・オフィサーとは一体だれなのか?」という話だ。

 この議論の行き着く先は,おおよそ決まっている。インフォメーション・オフィサーとは,システム部門のスタッフ,経営企画のような企画部門,そして営業や製造などの業務部門で改革・改善の計画を立案するスタッフ――の複合体ということになる。

 異論があるかもしれないが,筆者はCIOの仕事で最も重要なものは,(1)経営戦略に沿ったIT戦略を立案し,(2)これを具現化する情報システムを企画し,(3)実際に開発・稼働させた上で,サービス・レベルを維持・管理することだと考えている。このためには,(4)既存の業務プロセスとのギャップを分析することも欠かせない。

 こう考えると,(1)~(4)の仕事を支援するステークホルダー(利害関係者)がインフォメーション・オフィサーだと考えられる。それぞれ見ていくと,(1)では企画部門,(2)は企画部門とシステム部門,(3)がシステム部門,(4)では業務部門が,CIOを支援する役割を果たすことになる。

インフォメーション・オフィサーは仲が悪い

 この一連のプロセスが円滑に進めばシステムの開発・運用はうまくいくはずである。しかし,システム開発の現場の方がよくご存じの通り,どこかでつまずく可能性が高い。この理由は,企画部門とシステム部門,業務部門の三者が,システムの企画・開発・運用という側面ではたいてい仲が悪いからだ。「自部門の仕事を変えたくない」「余計な仕事を増やしたくない」「××部門は,こっちの事情をよく分かってないから・・・」――。

 本来,インフォメーション・オフィサーとして同じ目標を持つべきである三者が,システムの企画・開発・運用では,自部門の利害を代表する存在となってしまうのである。実際,ユーザー企業の取材で,経営企画部門とシステム部門の方に同席していただいた場合,こちらの質問に対してお互いの顔色をうかがうというケースが実に多い。

インフォメーション・ガバナンス・オフィス!?

 こうした状況を変えるには,インフォメーション・オフィサーを担うものたちが机を並べて仕事をするしかない。業務部門のリーダーまで巻き込むのは無理かもしれないが,企画部門とシステム部門を1つの組織に統合し,そのなかで2つの機能チームとして担当者を割り振るのである。

 業務部門からは輪番制で中堅社員を一定期間,この組織に配属する。そして,この組織を指揮する役員としてCIOを置く。CIOは,ITと業務に関する知識とスキルのほかに,異能のスタッフのリレーションシップを管理するスキルが求められることになる。IT戦略の立案・実践には,こうした組織構造が理想なのではなかろうか。

 その気になれば,このような組織は実現できる。というのも,性格が似ているPMO(プロジェクト・マネジメント・オフィス)を設立する企業が登場してきているからだ。PMOとは,自社が取り組むプロジェクトのすべてを管理する専任部署。その役割は,個々のプロジェクトが滞りなく遂行できるように支援することだ。

 一方,インフォメーション・オフィサーの組織は,IT戦略の立案から情報システムの開発・運用までを専任で管理する部署。インフォメーション・マネジメント・オフィスあるいはインフォメーション・ガバナンス・オフィスともいえるものだ。PMOを組織化している企業であれば,PMOのなかにITプロジェクト専門のチームとして,こうした機能を担わせることも可能だろう。

 一部の企業では,「IT戦略推進室」あるいは「業務改革推進室」といった名称で,似たような組織を立ち上げているが,企画部門またはシステム部門のどちらかの機能に重点を置きすぎている場合が多い。

 経営企画部門とシステム部門の仲が悪くて,システム化がうまくいっていないという企業にとっては一考に値すると思うが,いかがだろう?

(吉川 和宏=日経情報ストラテジー)