先日,この欄で「異論・反論『RFPの作り方』」を書いた。ユーザー企業が,RFP(Request for Proposal)を作る上でどのような試行錯誤をしているか,という内容である。ところで,RFPを受けてベンダーが作成する提案書の方もいろいろである。

 ユーザーがRFPを作成して提案を募ったり,相見積もりを取ったりするようになってきたので,それに伴いベンダーもきちんとした提案書を書き,コンペを前提としたプレゼンテーションをする機会が増えている。その結果,一つの提案書に割ける時間が限られるようになり,ベンダー担当者はどうやって効率よく中身の濃い提案書を作れば良いか苦心している。

 手間ヒマをかけた提案書には説得力がある。これまで見た中で感心したのは,ある教育機関が作成したRFPに基づく提案書。利用者が実際に使う画面とその遷移のモックアップを,HTMLを使いスクラッチで作成してあった。私が見ても利用イメージが一目で分かる。RFPに書かれていた業務フローやマスターを読み解き,分からないところは質問を投げ,外部設計に近い作業を提案書を作成する段階でやってしまったわけである。

 さすがによほどの勝算がないとここまで労力をかけるのは難しいと思うが,たとえ提案の内容が同じでも,書き方一つで提案書の印象はガラリと変わる。日経システム構築で「RFPに基づく,提案書の作り方」(2005年2~6月号)を連載していただいたイントリーグの永井昭弘氏(代表取締役兼CEO)は,良い提案書の4条件として「漏れなく」「重なりなく」「少なく」「分かりやすく」を挙げている。連載で取り上げたサンプルで良い例と悪い例を見比べると,確かに説得力がまるで変わってしまうことが分かる。

 もちろん,ユーザーがどこに発注すべきかは,欲しい機能とのマッチングとか,価格とか,同業他社での実績とか,人のつながりとか,オフィスの場所とか諸々の要素を総合して決めることになる。提案書の書き方だけが受注に直結するわけではない。しかし少なくとも提案書の書き方が悪いと,せっかく優れた提案内容であってもその良さが伝わらず,ユーザー,ベンダー双方に不幸な結果となってしまう。また,ベンダーの力の入り具合は,提案書をペラペラめくって見るだけでも本当によく伝わってくるものである。

 前述したような力の入った提案書ばかりではない。一方では,ダメな提案書も大量生産されている。私が取材で実際に見聞きした提案書のうち「これで数百万円,数千万円の商談を勝ち取ろうというのはいくら何でも無理ではなかろうか」と思ったものを紹介する。

ダメな提案書その1●使い回し
 内容の大半が,社名を書き換えれば,どこのユーザーにも通用しそうなものになっている。特にパッケージ製品を担いでいるベンダーに多い。ユーザーがせっかくRFPを作って要求仕様を検討しているのに,それを無視して自社が考えるベスト・プラクティスを押しつけてくることもある。提案書を電子ファイルで受け取った場合,ファイルのプロパティを見ると他社の名前が入っていることさえある。他社用に作成したことがバレバレである。

ダメな提案書その2●意味もなく厚い
 分厚い提案書は一見,情報満載に見えるが,受け取ったユーザーはとても全部を読み込むことができない。「要するに何が特長なのか」が分からず,ストレスを与えるだけの結果に終わる。本体と添付資料を分けたり,本体の構成を考えたりするなど読みやすくする工夫が必要だ。

ダメな提案書その3●印刷切れ
 印刷の下の方が途切れていて読めないページがある。プリント・アウトした紙をチェックもせずにユーザーに渡しているのだろう。せっかくいいことが書かれていてもこれでは情報が伝わらないし,それ以上にページをめくる気力を萎えさせる。ビジネス文書として最低限の体裁を整えることは必要だし,できれば読みやすいフォントを選択したり,枚数が多いなら目次を作ったりするくらいのことはやりたい。

 ユーザーとベンダーのコミュニケーションが上手くいかず失敗するプロジェクトは多い。ユーザーからの最初のコミュニケーションがRFPだとすれば,提案書はベンダーからのコミュニケーションである。ここがかみ合わないような相手と,プロジェクトをキックオフした後にも十分な意思疎通ができる期待は薄い。

 IT Pro読者の皆様にも広くご意見をお聞きしたい。これまで実際に受け取った提案書のうち「こんな提案書はいらない」または「あの提案書は良かった」と思ったものを教えてください(ベンダーの方は自分がかつて作成した提案書を振り返ってお答えください)。いただいた内容は,IT Proで報告する。

(尾崎 憲和=日経システム構築)