「ユーザーとの会議の“段取り”や“仕切り”がまずいためにプロジェクトが破綻するのを,これまで何度も目の当たりにしてきた。メンバー同士の意見が対立して紛糾することもなく,表面的に議事が淡々と進む“白けた会議”になっているときほど,注意が必要だ」――。先月,取材した大手コンピュータ・メーカーのベテラン・コンサルタントからそんな話を聞いた。

 このコンサルタントは課題分析や要件定義などの上流工程が専門で,付き合いのあるユーザー企業から相談を受けて,破綻しかけたプロジェクトに途中から“火消し”として乗り込むことがある。相談を受けてまずはオブザーバーとして,ユーザー企業の各現場のキーパーソンが集まる上流工程の会議に出てみると,共通してある特徴が見られるという。「欠席者が少なくないうえに,発言するのは一部のメンバーだけ。しかもそれぞれが自分の考えを言うだけなので,お互いに意見をぶつけ合う議論になっていない」

 そんな状態では,何度会議を開いても合意形成が生まれるはずもない。プロジェクトをそのまま無理に進めれば,そのあと連綿と続く後工程で不満が出て手戻りが発生し,失敗するのは火を見るより明らかである。結果,プロジェクトは進められなくなり,頓挫してしまう。

ファシリテーションの基本だけでは不十分

 日経ITプロフェッショナルの6月号(6月1日発行)で,会議の“段取り”や“仕切り”を意味する「ファシリテーション」に関する特集記事を担当した。

 ファシリテーションの基本は,事前に会議の目的(議題)を明確化しておき会議冒頭で説明する,会議中にホワイト・ボードなどを使って論点を整理する,会議の最後に議論を振り返って何が決まったか/決まらなかったかについて確認を取る,会議終了後すみやかに議事録を作成して配布する,といったことだ。こうした基本は,ユーザーの役員を交えた会議からエンジニア数人での打ち合わせまで,会議の規模や種類に関係なく適用可能だ。実践することで,会議運営を効率化できるのに加えて,決めたことを確実に実行することにつながる。

 ただし,ことユーザーとの上流工程の会議では,これらファシリテーションの基本だけでは不十分だ。メンバー各自の「参画意識」を高めるための工夫が必要になる。「参画意識」は“責任感”や“やる気”と言い替えられる。ユーザー企業の各部門から駆り出されたメンバーは,プロジェクトの主体者としての認識が不十分であることが多い。これをそのままにしておくと,冒頭で説明したような“白けた会議”になり,合意形成は生まれず,プロジェクトの破綻につながる。

プロジェクトの背景と目的を明示する

 では,どうすればメンバーの「参画意識」を高められるのか。ここでは,冒頭のコンサルタントに聞いたノウハウから,特に重要な3つのポイントを紹介しよう。

 1つ目は,キックオフ・ミーティングなどで,プロジェクトの背景と目的を具体的に分かりやすく明示することである。「顧客満足度を最大化するために顧客情報を全社で共有する」といった抽象的な表現でプロジェクトの目的を示すようでは,プロジェクトをやる意義がはっきりしない。これでは,メンバーの参画意識を高めるのは難しい。

 そこで新しい経営戦略や競争環境の変化などプロジェクトを発足させた背景から説き起こし,何を実現したいのかという目的を一言で表す。例えば「新規事業分野への進出によって,複数の営業担当者が同一顧客にアクセスするようになった」,「営業履歴や顧客情報,問い合わせ/クレーム情報を共有していない」といった背景(原因)があり,それによって「顧客対応の遅れが頻発しているのに加えて,顧客の潜在的なニーズを掘り起こす提案営業も不十分である」という問題が起きていることを指摘する。そのうえで,プロジェクトの目的を「商品分野別の営業,アフターサービス,コールセンターという部門を超えて全社で顧客情報を共有し,顧客ごとに一貫性のあるアプローチを効率的に行う」という具合に示す。

 これらプロジェクトの背景と目的は,あらかじめプロジェクトの発起人である経営層やプロジェクト・マネジャーなどにインタビューしてまとめておく。そのうえでA4程度の紙1枚に図式化して示し,会議で配布し説明すると効果的である。

本音を言いやすい環境を作る

 2つ目は,本音を言いやすい環境を作ることだ。部署や役職が異なるメンバーが集まると,どうしてもお互いに遠慮がちになりやすい。そんな雰囲気を打ち破って互いに本音を言い合える状況を作ると,「参画意識」は大いに高まる。

 本音を言いやすい環境を作る方法の1つは,すでに実践しているケースが多いと思うが,事前にアンケートを採ることだ。在庫削減や顧客対応といったテーマに関して,現状で問題だと感じていることを記述してもらう。それを回収してまとめておき,会議で議論のたたき台にする。アンケートのほうが本音が出やすく,それをいったん議論の俎上(そじょう)に乗せてしまえば,会議の場でも本音を引き出しやすくなるという。

 会議のルールを設定することも,本音を出やすくするために重要である。例えば「全員の立場は対等」,「討論は自由だが,批判は厳禁」といったルールを紙に書き出し,会議の場の目立つ場所に張り出す。そのうえで,会議を実りあるものにするためにルールを設けた旨を説明する。ただしメンバーの反感を買わないように,プロジェクト・マネジャーやプロジェクト・リーダーなどから,必ず事前に了解を得ておくことが肝要だ。

発言するメンバーの偏りをなくす

 会議では,いわゆる“声の大きい人”ばかりが発言しがちである。しかしそうなると,それ以外のメンバーの「参画意識」は,疎外感や不公平感を持つようになり「参画意識」は損なわれてしまう。逆に,メンバー全員に発言の機会を与えると,1人ひとりが「自分の意見が認識された,役に立った」という実感を得て「参画意識」が高まるもの。そこで,発言者の偏りをなくすことが重要な意味を持つ。これが3つ目のポイントである。

 発言者の偏りをなくすには意識して,会議前や会議中に全員からアンケートを採る,1人ひとり指名して発言を促す,といったことに努める必要がある。話し下手なメンバーがいる場合は,だれかが意見を言った後で「○○さんは,どう思われます?」といった具合に話を振れば発言を引き出しやすい。

 このほかにも,「出された意見の意味や論点をメンバー全員に認識させる」,「結論を出すときに全員の意見を再確認する」などのポイントがある。日経ITプロフェッショナル6月号で詳しく解説したので,ぜひご覧いただきたい。

(中山 秀夫=日経ITプロフェッショナル )