SNS以外にも,表向きは「オープン」に見せていても,実は既存の人間関係に根ざしているインターネット上のサービスは多い。そもそも電子メールがそうだし,最近注目されているところで言えば,無料のインターネット電話サービス「Skype」もそうだ。

 一人でSkypeクライアントをパソコンにインストールしても,Skypeを有効活用できない。Skypeは,通話相手を「Skype名」で指定する。膨大な数のユーザーの中から知り合いを検索して使ったり,まったく見ず知らずのユーザーとコミュニケーションすることも不可能ではないが,Skypeの現実的な使い方とは言えない。あらかじめ,仲間や友達と「Skypeを使おう」と示し合わせたうえで,Skype名を交換し,電話やチャットに利用するというのが普通の使い方だろう。つまり,Skypeはインターネットで不特定多数のユーザー間で情報をやりとりすることを対象としたサービスではないのだ(注2)

注2その点,ブロードバンド回線に付属するIP電話サービスは“開かれた”サービスといえる。そもそもオープンな電話網や電話番号を基盤として利用するからだ。SkypeにもSkypeOutやSkypeInと呼ぶ付加サービスで既存の電話網との相互接続を図っている。こちらは,オープンなサービスといえるだろう。

 もともと「オープン」なサービスとして提供されてきたWebの世界で「クローズ」なサービスを提供するSNS。ただ,「友達」関係だけに固執していると,大きな発展は望めない。なぜなら,「友達の友達の友達の友達の・・・」と友達関係を拡大していけば,最終的に全員が友達関係でつながり,一つのSNSで事足りてしまうようになるからだ(注3)

注3:それだけ大きくなると,SNSの特徴である「安心感」が損なわれるのではないかという懸念もある。この点に関しては後述する。

 キヌガサを提供するpaperboy&co.の家入一真社長も,「確かに一極集中は進むかもしれない」と同意する。ただし,「その一方で,テーマ別にニッチなSNSも数多く登場してくるだろう」と予測する。

 事実,「友達」以外の「クローズ」なつながりを核とするSNSが登場し始めている。「ペット専門や子育てのコミュニティ,起業家を対象とするSNSなどがある」(家入社長)。各学校の同窓生を集めたコミュニティ・サイト「ゆびとま」は,SNS「Echoo」と連携し,SNSへ衣替えしている最中だ。ほかにも,実社会にある組織の交流そのものをSNSで実現するようなケースも出てくるだろう。SNSが拡大する可能性はまだまだある。

広告媒体として期待大

 現状,SNSのビジネスは二つの収入で成り立っている。

 一つは広告収入だ。ユーザーの利用頻度が高く,サイトの滞在時間が長いなら,それだけ多くのページがユーザーの目に触れることになる。ページ・ビューが増えれば,広告媒体としての価値は上がる。さらに,コミュニティや友達関係などに着目すると,ターゲットを絞ったマーケティングやオンライン・ショッピングと連携するアフィリエイトなどへの活用も考えられるだろう。

 SNSのもう一つの収入源は,有料のプレミアム・サービスの収入である。これは,mixiだけだが,月額315円(税込み)でフォト・アルバムや携帯電話からの利用,コミュニティ内でもアンケート機能などを可能にした「mixiプレミアム」を提供している。ユーザーが最も多いmixiでは,この二つの収入で「単月で黒字を実現した」(イー・マーキュリー広報の小堀浩子氏)という。

 さらに韓国には,別の収入源で大きな利益を出しているSNSがあるという。韓国最大規模のSNS「サイワールド」も基本的にはタダで利用できる。ただし,自分のページを飾るアイテムを有料化している。自分のページの見栄えをよくする外枠(スキン)や,バックで流す音楽,自分の写真代わりのイメージ(アバター)などの売上げが主な収入源になっているようだ(関連記事1関連記事2)。

課題は「個人情報」

 このようにビジネス的に見ても将来性が感じられるSNSだが,もちろん課題もある。

 一つは,現実社会と同じ慣習に対してユーザーが嫌気を感じる可能性がある点だ。現実社会をそのままWeb上のサービスに持ち込むことで,煩雑さを感じるユーザーはすでに出てきている。

 例えば,SNSのユーザーの中には,「友達が日記をアップしたら,一言でもいいから必ずコメントを付けるのが礼儀」と思い込んでいる人もいるだろう。SNSという友達つながりのコミュニティではありえる話だ。こういうユーザーにとって,SNS上で友達がアップする日記が増えることは,コメントを付けるという作業の増加につながる。毎日いくつものコメントを書かなければならない――。こうした煩雑さに嫌気をさして,SNSの利用を止めたユーザーも出始めているようだ。

 さらに,SNSの特徴の一つである匿名性の無さがユーザーの嫌気を引き起こす場合もある。これは,安心感と表裏一体をなすものだ。

 例えば,mixiには「あしあと」という機能がある。自分のページにアクセスしてきたユーザーを一覧できる機能だ。自分のページを誰に見られたのかがわかることで安心感が得られる。ただし,逆に自分が訪問したページを相手に知られてしまうことに抵抗感を持つユーザーもいるだろう。こうした抵抗感が,SNSを利用しなくなるきっかけになるかもしれない。

 同様に,提供者側の個人情報の管理体制にも問題の種が潜んでいる。先に「SNSではターゲットを絞ったマーケティングが可能」と書いたが,SNS上でのユーザーの行動をチェックすればするほど,細かいターゲット別のマーケティングが可能になる。こうしたユーザーのアクションをどこまでマーケティングに活用するのか――。その線引き次第では,ユーザーが離れていく原因になる。

 SNSのように,実社会での人間関係を基盤としたコミュニケーションにインターネットを活用するサービスは今後も増えていくだろう。オープンで匿名性のあるサービスとクローズで匿名性を廃したサービス――。インターネット上のサービスの種類が増えることは,ユーザーにとってマイナスにはならない。両者をうまく使い分けることで,ユーザーはより便利に,より快適にインターネットを活用できるようになるはずだ。

(藤川 雅朗=日経NETWORK)