4月15日に公開した記者の眼「Microsoft Office 5万円は高いか安いか」には,読者の皆様より多数のご意見をいただいた。記事に併設したアンケートには,667人の読者から回答をお寄せいただいた。

 「OpenOffice.orgまたはStarSuiteを利用したことがある方」に回答をお願いしたアンケートであったため,どの程度の方に回答していただけるのか心配だったが,予想以上の回答をいただくことができた。オフィス・ソフトが日常使うソフトウエアであるというだけでなく,Microsoft Office以外の選択肢に多くの読者が関心を持っていることの表れだろう。

条件付きも含め76.6%が「業務用途でMS Officeの代替は可能」

 それでは,IT Proの読者はOpenOffice.orgをどう評価したのだろうか。

図1●OpenOffice.orgとStarSuiteの業務用途での評価
OpenOffice.orgまたはStarSuiteを利用したことがある読者に回答をお願いした。有効回答は645件。なお,このグラフはOpenOffice.orgのCalcで作成した
 図1[拡大表示]が「OpenOffice.orgまたはStarSuiteを利用されたことがある方は,業務用途での評価をお聞かせください」という問いに対する回答である。有効回答は645件。「業務用途でもMicrosoft Officeを代替できる」という回答は14.0%。「ある程度割り切ればMicrosoft Officeを代替できる」という回答が62.6%である。合わせて76.6%が代替可能と回答した。これも記者の予想を上回る数字だった。

 業務用途ではMS Officeを代替できないという回答は18.6%。理由としては「機能,信頼性などで劣るため」が6.2%,「既存文書との互換性や移行のコスト」が12.4%だった。

 「その他」という回答も4.8%あった。その内容は「会社ではMicrosoft Office,家ではOpenOffice.orgを使用している」「社外とやり取りする文書は互換性のためMS Officeを使う必要があるが,社内文書については十分代替できる」と場面に応じて併用しているというものが多かった。

「MS Officeでもバージョン間の互換性は完全ではない」

 回答してくださった読者のほとんどが,単に選択肢を選ぶだけでなく,コメントを寄せてくれた。鋭い視点でのご指摘も多く,様々なことを気付かされた。

 コメントは次ページ以降に掲載したが,ここでは代表的なコメントをいくつか紹介しておく。

 価格については,やはり高価と感じているという意見が多かった。実際に大企業のシステム担当者と思われる読者からも,費用面でバージョンアップを思いとどまっているというコメントがあった。

弊社でOffice単体のSAの購入を見積もってみたところ数年で億単位のライセンス料がかかることがわかり,Office 2000以降バージョンアップは停止しております。
 実際に利用するのは基本機能に限られており,必要ない機能は削って価格を下げ安定性を向上させるべきという意見も多かった。
Microsoft Officeは97版でほぼ完成しています。それ以降の版で追加された不要な機能の開発費をユーザーが負担しなければならない,というのはおかしな話だと思う。
当自治体はMicrosoft Officeユーザーだが,99%は基本的機能しか利用していない。IT関連コスト圧縮を求められており,OpenOffice.orgへの移行を検討せざるを得ない。移行しても問題は少ない。
 互換性の問題については「Microsoft Officeでもバージョン間の互換性は完全ではない」という指摘も多かった。
記事にあった『OpenOffice.orgでWord文書を読むと1行はみ出す』などの問題は,Microsoft Wordの各バージョン間ですら発生する。
 マクロの互換性についても「VBAで開発したものが,VB.NETでは動かなくなる」という指摘があった。

業務利用ではマクロが壁に

 さて,OpenOffice.orgとStarSuiteを利用したことがある回答者の62.6%が「ある程度割り切ればMicrosoft Officeを代替できる」と考えているわけだが,この“ある程度の割り切り”とは具体的にどのようなことだろうか。あるいは,回答者は「比較的簡単に代替が可能な業務とそうでない業務」をどのようにとらえているのだろうか。回答者のコメントを見てみよう。

自分自身の業務用ドキュメント作成,編集は,OpenOffice.orgで十分代替できるという感触だ。ただ,悩ましいのは,経理などの共通部門が提供して配布するドキュメント(例えば予算策定・管理用途)。マクロ(VBA)を多用しており,移行が難しい。これらもOpenOffice.orgで作成することは不可能ではないだろうが,既存の資産の量を考えると移行コストに見合うかどうかはまだ分からない。このような文書を使う必要がない社員から移行を進める,などの一種の「割り切り」をすれば代替は可能だと思う。
業務上Excelについてはマクロ機能の関係で問題があるが,それ以外に関しては問題ない。
日常業務においてMcrosoftのExcel VBAを多用しているため,OpenOffice.orgでは代替できません。
文書についてはそんなに凝ったことをしないので代替は可能だと思う。けれどExcelやAccessは単純な数値の羅列ではなく,VBAを使った処理が主体であるために代替は難しくなると思う。
 このように,業務でOpenOffice.org利用が難しいとする読者があげた理由の筆頭は,マクロである。

 OpenOffice.orgとStarSuiteには,VBAに似たOpenOffice.org BASICと呼ばれるマクロ言語がある。ただしVBAと完全な互換性はない。VBAからOpenOffice.org BASICへの変換ツールはあるが,VBAにあってOpenOffice.org BASICにはない機能もあるため100%変換できるわけではない。ちなみに現在ベータ版のOpenOffice.org 2.0とStarSuite 8ではOpenOffice.org BASICのほかにJavaScriptとPython,BeanShellでマクロを記述できるようになっている。

 社内のユーザー・サポート担当者と思われる読者からは,移行のためのサポート負荷を心配する声も聞かれた。

個人的にはがんばってほしい。ただ,Microsoft Office導入当時のサポート・コストを考えると,OpenOffice.orgを入れたときの混乱が目に見え背筋が寒くなる。
ある程度割り切れば代替可能だが,割り切れない人は必ずいる。一太郎,ロータス1-2-3からOfficeへの切り替え時と同様の混乱とフォローアップが必要と思われる。この時もだいぶ罵声を浴びせられたことを思うと気が重くなるのは確か。
 ただし,こんな意見もあった。
Microsoftの言う「教育/サポート・コストの増大を招く可能性」の意味がわからない。自分は,オフィス・ソフトについての教育もサポートも受けたことがない。

「競争原理の働かない市場には発展はない」

 多くの読者が賛同してくださったのは,競争が必要だという点だ。

良いものを安く便利に利用できるようにお互い自由に切磋琢磨してほしい。
競争原理の働かない市場には発展は考えられません。
 まさにそれこそが,先の記事で記者が最も伝えたかったことだ。
Microsoft Officeに機能を実装していくということではなく,オリジナルの何か,OpenOffice.orgにしかない何かが必要だと思う。価格ではない魅力的なオルタナティブとしての「何か」が必要なのだと思う。
 競うべきポイントははもちろん価格だけではない。前述のように「Microsoft Officeに最近付加された機能はほとんどが不要」という意見もあったが,Microsoft OfficeにはOutlookで送信した先での印刷やコピーを制限できるなど「暗号化,ユーザー認証などの付加価値がMicrosoftにはある」という意見もあった。逆に,OpenOffice.orgにはドキュメントをPDFやFlashとして出力する機能があり,そのためにOpenOffice.orgを使用したという読者もいた。軽快に動作することや,安定性を重視する読者もいる。Microsoft OfficeとOpenOffice.orgに限らず,多くのソフトウエアが様々な領域で競い合い,進歩していくことを願う。

 また,OpenOffice.orgとStarSuiteを公認で利用している企業や公共団体などがあれば,状況を教えていただけないだろうか。現実に使用してみると,どのような問題にぶつかるのか,それらの問題をどのように回避したのか,支障のない範囲で教えてもよいという読者の方は,ぜひ編集部までメール(iteditor@nikkeibp.co.jp)をお送りください(メールの題名には「オフィス・ソフト係あて」とお書きください)。

(高橋 信頼=IT Pro)

読者のコメント

  • 「業務用途でもMicrosoft Officeを代替できる」と回答した読者のコメント
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