最近,“携帯フルブラウザ”というキーワードをよく目にするようになった。パソコン用にカスタマイズされたWebページが表示できる,携帯電話機向けのブラウザのことである。

写真1●日経NETWORKのページをjigブラウザで表示させてみた
 「パソコン用にカスタマイズしたページ」とは,例えばtableタグを使って横幅を固定して全体のレイアウトが崩れないようにしているWebページである。これを普通の携帯ブラウザで表示しようとするとエラーになるが,携帯フルブラウザは,そうしたWebページも表示できる(写真1)。

 出先から掲示板やWebメールをチェックしたり,地図検索サイトで目的地を調べる程度なら十分に使える。この携帯フルブラウザを調べてみると,実現手法が2通りあった。

パターン1:最初から組み込まれている

 その一つが,携帯電話機に最初から組み込むことを想定して作られたもの。ACCESSのNetFrontやノルウェーOpera SoftwareのOperaなどがそう。すでにOperaのBREW版はauの携帯電話機W21CAに組み込まれている。

 これらの最大の強みは,やはり最初から携帯電話機に入っていることだ。Windowsマシンを買えばInternet Explorerが入っているのと同じである。ただ,現状ではバージョンアップをどうするかという点が大きな課題といえる。

 DHTMLやCSS,PDFやShockwaveなど,Webページを構成する要素はHTMLだけではない。そうしたものすべてをカバーしたとしても,また新しい技術が出てくる。もしかすると,ブラウザ・ソフト自体にバグが見つかるかもしれない。これに追いつくためには,バージョンアップは不可欠。

パターン2:Javaプログラムとして提供

 その点,もう一つの手法は,携帯電話機にあとからインストールして使うのが前提なので,バージョンアップも同じ手法が使える。こちらのソフトは,jig.jpのjigブラウザやプログラマーズファクトリのScopeなどがある。

 どちらも携帯電話機にインストールして使うJavaのプログラムである。これらが組み込み型ブラウザと根本的に違うのは,専用のプロキシ・サーバーを経由してWebサーバーへアクセスする点にある。

 実は,携帯電話機にインストールできるJavaプログラムは,セキュリティを高めるために,ダウンロードしたサーバーにしかアクセスできない決まりがある。このため,こうしたJavaブラウザはダウンロード元のサーバーをプロキシ・サーバーとして利用する。

 そこでこれらのブラウザは,携帯電話機の非力さをカバーするために,積極的にプロキシ・サーバーの能力を活用する。例えば,日本語文字コードの変換処理はサーバーが担う。また,Javaのブラウザが扱えない動画データなどは,プロキシ・サーバーが削除してからブラウザに返信する。さらにプロキシ・サーバーは返信の際にデータを圧縮する。つまり,ブラウザは表示に必要な最小限のデータだけを受け取れる。こうして,Webページを表示するまでの時間を短縮している。

 ただし,これらにも弱点はある。今の携帯電話機には,100Kバイト程度の大きさのJavaプログラムしかインストールできない点である。また,プロキシ・サーバーを利用するため,jigブラウザの場合は月額利用料1050円(年間なら6000円)がかかる。

今はJavaプログラムの方が使いやすいが・・・

 Webページが表示されるまでの体感速度や使い勝手の面は,今のところJavaプログラム型の方が優れているように,私は感じている。でも,それは,まだ小さな市場しかない現状の話である。この先どうなるかは,正直言って分からない。

 WindowsにバンドルされたInternet ExplorerがNetscape Navigatorを駆逐したように,組み込み型がJavaプログラム型を駆逐していくのだろうか。それとも,Internet Explorerがあっても,FirefoxやOperaが人気を集めている最近のパソコン向けブラウザ市場のように,Javaプログラム型が生き残るのか。パソコン界で巻き起こった「ブラウザ戦争」が,携帯電話という新しい舞台で再び起ころうとしている――。そう感じているのは,私だけではないはずだ。

(三輪 芳久=日経NETWORK)