質問。今,最も売れている固定電話サービスは?

 こう聞かれたらどう答えるだろうか。筆者は少し前までであれば「それは,なんだかんだ言っても,日本テレコムの『おとくライン』じゃない?」と答えた。今年の2月初旬の時点で開通した回線数こそ12万だったが,申し込みは全体で85万だった(関連記事)。

 おとくラインの営業は昨年10月に本格化したので,およそ4カ月で85万回線を獲得したことになる。つまり1年で250万回線を獲得。固定電話は全体で6000万回線弱だから5%のシェア――との計算も成り立つ。

再度大きく動き始めたマイライン市場

 しかし日経コミュニケーションの4月15日号で固定電話の市場動向の特集記事を書くため,データを集めて見ると意外な結果が浮かび上がってきた。実は最も多くのユーザーを獲得していたのは,おとくラインなどの直収電話ではなく,従来型の加入電話やISDNだったのである。もっと正確に言うと,NTTコミュニケーションズ(NTTコム)が直収電話の刺客として送り込んだ新マイラインの「プラチナ・ライン」である。

図1●固定電話のマイライン登録回線数の単月の増減
マイライン事業者協議会が公表しているデータから日経コミュニケーションが作成(日経コミュニケーション2005年4月15日号31ページより)
 プラチナ・ラインの勢いはものすごい。おとくラインと同時の昨年12月1日にサービスを開始しているが,2月末の時点で県外通話が累計51万,市内通話に至っては80万ものユーザーを上乗せしている図1[拡大表示]。これは実際にユーザーが使っている回線数。おとくラインの5倍以上の勢いである(注1)

注1:さらに2005年3月単月の数字も伸びた。県外通話で22万9000回線,市内通話で38万9000回線を上乗せした(関連記事)。

 筆者はこの状況がすぐには飲み込めず,何度も公表している数値をチェック。「ぶつぶつ」と数値を読み上げた。しかし間違ってはいないかった。そして冷静に考えてみた。なぜプラチナ・ラインが伸びているのか。

おとくラインを徹底的につぶす

 理由は極めてシンプルだった。NTTコムはおとくラインなどの直収電話にあえて行かなくてもいいサービスを作り上げたのである。忘れられかけていた従来型固定電話のマイラインの市場が,直収電話によってたたき起こされたのである。

 まずは通話料金。プラチナ・ラインは,県外通話が全国一律3分15.75円,市内も含む県内通話は同8.4円である。これに対しておとくラインは個人向けのプランで県外3分15.645円。市内も含む県内通話が同8.295円。多少おとくラインの料金が低いが,ほぼ同じ水準と言える(注2)

注2:毎月の基本料金については東西NTTが対抗値下げした結果,都市部であれば月1785円となった(関連記事)。これはおとくラインの基本料金月1575円+工事代月105円(60カ月)=1680円と105円差。なお,東西NTTは明細書をWebページでの表示に切り替えたユーザーに毎月105円を割り引くサービスを投入したが,おとくラインも2005年2月末締めの請求分から明細書をWebページで提供するユーザーに対し,月額105円を割り引くサービスを提供している。
おわびと訂正:記事掲載当初,「東西NTTが明細書をWebページでの表示に切り替えたユーザーに毎月105円を割り引くサービスを投入したため,おとくラインとの価格差はない」としましたが,おとくラインも2005年2月末締めの請求分から同様のサービスを提供しています。おわびして追記・訂正します。

ADSLから何から何までそのままま

 決定的とも言えるのが,サービスの移行に伴うユーザー側の負担である。直収電話もプラチナ・ラインも,従来と同じ電話機と電話回線を使い続けることができる。電話局側での切り替え工事だけで済むからだ。

 直収電話の場合,利用できるADSLサービスが限定されてしまう。これは少々複雑な説明がいる。直収電話では電話局とユーザー宅を結ぶメタル線の管理が,東西NTTから日本テレコムなど他事業者に移る。これに伴って,東西NTTとADSLの事業者が結んでいた接続契約を,日本テレコムが結び直す必要がある。

 ただしブロードバンドや電話の事業でライバル関係にあるADSL事業者は契約に及び腰。結果として,おとくラインはグループであるソフトバンクBBのYahoo! BBしか利用できないのが現状である。