米Microsoftは2005年3月21日,2005年中に出荷開始予定の統合開発環境(IDE:Integrated Development Environment)「Visual Studio 2005(VS 2005)」のライセンス体系を発表し,想定小売価格を明らかにした(関連記事)。企業向け製品を利用者の役割に合わせた3製品に再編したり,個人向けのStandard Editionを用意するなど,.NET開発者のすそ野を広げようという同社の意欲が感じられる内容だった。

 ちなみに,Standard Editionは,Professional Editionから開発者向けSQL Serverなどを削って価格を下げた製品。想定実売価格は299ドル。Professional Edition(799ドル)と比較すると半額以下の値付けだ。個人プログラマには魅力的な製品と言えるだろう。

 しかし,残念な点もある。同社は2004年の6月29日に入門者向け製品であるExpress Editionの計画を発表したときに,無料で配布する可能性もあるとしていた。だが,今回の発表によれば,Express Editionはどうやら有料になりそうなのだ。

 Borlandの「Delphi 6」以来,Windowsアプリケーション作成用の無料IDEはほとんど登場していない。Delphiもバージョン7以降は無料版を提供していない。現在のところ,Microsoftが個人向けにVisual Basic/C++/C#/J#各言語ごとのパッケージを用意しているが,実売価格はおよそ2万円。個人でWindowsアプリケーションを作ってみようと考える人にはちょっと高い。

 Express Editionが無料で登場すれば,気軽にWindowsアプリケーションの作成に挑戦する人が増えると期待していた。Express Editionは,デスクトップ・アプリケーションの作成に必要なものに機能を絞り,代わりに学習用のツールやサンプルを同こんした製品だ。初心者や,試しに使ってみたいプログラマには十分な内容と言える。対応言語が異なる4製品(Visual Basic/C++/C#/J#)と,Webアプリケーション開発向けの1製品(Visual Web Developer)を用意する。

Javaの普及には無料の開発ツールが大きな役割を果たした

 筆者は,無料版の提供は決して無理な要望だとは思っていない。Express Editionの無料化は,Microsoftにとっても有利に働く可能性があるからだ。無料で開発ツールを提供すれば,思わず手を出すプログラマが出てくる。その結果,.NET Frameworkの普及が進むというわけだ。

 2002年にVisual Studio .NET(VS .NET)が登場して,Windows開発の基盤が.NET Frameworkに移行することになった。今回発表になったVS 2005は.NET Framework開発用IDEとしては3世代目になる。しかし,.NET Frameworkへの移行が進んでいるとは言いにくい。

 日経ソフトウエアの編集に携わる筆者が特に気になっているのは,Visual Basicの記事に対する需要が減ってきている点だ。Visual Studio 6.0から.NETになって言語仕様などが大きく変わったので,なかなか移行しないプログラマが多いと見られる。あるいは,全く違う言語に移行しているのかもしれない。その結果,VBの新しい情報を求める読者が減っているのだろう。

 Visual Basicに代わって読者の人気を集めるようになったのがJavaやPHPといったWebアプリケーション開発に関する記事だ。特に,Javaの記事は昨年から読者の人気が上がり始め,日経ソフトウエアの柱となる話題になってきた。

 Javaの記事の人気が急に上がった理由としては,サーバー・サイドでJavaが本格的に受け入れられるようになってきたという点が最初に挙げられるが,「Eclipse」などの無料開発ツールの存在も無視できない。使いやすい開発ツールが無料で手に入れば,それを使って開発するプログラマも増えるということだ。

 Eclipseはオープンソース・ソフトウエアとしてEclipse Foundationが中心となって開発しているツール。無料で使えるが,機能は盛りだくさんだ。コード入力支援やデバッグ,ビルド,テストを支援する機能など,IDEとして必要な機能は一通り備えている上,リファクタリングを支援する機能なども備えている。

 さらに,プラグインで機能を追加することも可能。インターネット上に様々なプラグインが存在するほか,Eclipse自身がプラグインを開発する機能を持っているので,自身でプラグインを開発することもできる。とりあえずJavaを学習してみたいという人だけでなく,業務でプログラミングをする人も十分使えるツールだ。

まずはユーザーに使ってもらうことが大切,日本だけでも無料化を

 オープン・ソースのソフトウエアであるEclipseとVisual Studioを全く同じようには比較できないが,やはり無料で使えるという点は利用者の拡大に一役買っているはずだ。現在,MicrosoftはExpress Editionのベータ版を無料で公開している。日経ソフトウエアでは,このベータ版を利用してC#の連載を始めたが,良い反応を得ている。

 .NET Frameworkをなかなか使おうとしないVBプログラマや,Visual Studioから離れてしまったプログラマを呼び戻すには,まずは使ってもらうことが大切ではないだろうか。そのためにはExpress Editionを無料で公開して,気軽に使ってもらう環境を作るべきだと思う。

 また,私はExpress Editionが無料になればプログラミングに挑戦する人が増えるのではないかと期待している。日経ソフトウエアはプログラミングを職業としている人だけでなく,趣味でプログラミングをしている人にも読んで頂いている。プログラミング雑誌を作る人間としては,どのような形であれプログラミングに挑戦する人が増えることはとてもありがたいことである。

 米MicrosoftはExpress Editionの実売価格は49ドルになると想定している。日本法人は日本での価格について検討中としながら「大きくかけ離れた価格にはならない」とも言う。Express Editionが無料で登場する可能性はかなり低くなったが,何とか無料で配布する方法を検討してほしいと思う。サポートなし,自己責任で利用する形になったとしても,利用する人はきっといるはずだ。

(笹田 仁=日経ソフトウエア)