パソコン周辺機器ベンダーのバッファローが2005年1月に販売を始めた「LUA-U2-GT」はちょっと考えさせられる製品だ。ギガビット・イーサネット対応のLANアダプタなのだが,インタフェースはUSB2.0対応。LAN側のインタフェースが,より対線で1Gビット/秒の速度が出るギガビット・イーサネット規格1000BASE-Tに対応しているにもかかわらず,パソコンと接続するUSB2.0の伝送速度は480Mビット/秒に過ぎない。「ギガビット・イーサネットで使うのに,最初から1Gビット/秒の速度は期待できないなんて意味がない」と思ってしまう人もいるだろう。

 では,実際にはどの程度のパフォーマンスが出るのだろうか。何の工夫もなくただLUA-U2-GTをパソコンに接続して,ギガビット・イーサネット対応のLANスイッチ経由でギガイーサ対応LANポートを内蔵した最新型パソコンと対向させ,その間でWindowsのファイル共有環境を構築した。そして,相手先にある500Mバイト超のファイルをコピーする時間をストップウォッチで測ってみた。すると,計算した結果,速度はなんと92Mビット/秒しか出なかった。これじゃ100メガ・イーサネットで使ってもそんなに違いがないように思える。

 でも,本当にUSBだとギガビット・イーサネット対応にする意味はないのだろうか。

通信でいう「速度」にはいろいろな意味がある

 ファイル転送の時間をストップウォッチで測定して計算した「速度」は,電気信号がケーブル上を伝わっていく速さではない。アプリケーション・ソフトから見て,単位時間にどの程度のデータ量をやりとりできたかという値,いわゆる「スループット」である。アプリケーション・ソフトから見た数値なので,イーサネット・フレームやIPパケットのヘッダー部分などがオーバーヘッドとなって影響する。

 それに対して,ギガビット・イーサネットの1Gビット/秒や100メガ・イーサネットの100Mビット/秒という数値は,データを回線に送り出す速さだ。これを「伝送速度」という。伝送速度とはつまり,ギガビット・イーサネットの場合なら10億分の1秒(1ナノ秒)単位に1ビットずつ回線に送り出しているので(注1),1秒間に換算して10億ビット/秒(=1Gビット/秒)というわけである。100メガ・ーサネットなら1億分の1秒(10ナノ秒)単位に1ビットずつ回線に送り出すので,1億ビット/秒(100Mビット/秒)になる。

注1:厳密にいうと,1000BASE-Tは複雑な符号化方式を採用しており,1ビット単位で電気信号に変換していないが,イメージとしては正しいだろう。

 この二つの速度を見てわかるとおり,通信でいう「速度」は,日常で使う「速度」という言葉と意味が異なる。日常で使う速度は,例えば「自動車の速度」とか「電車の速度」とか「歩く速度」といった具合に「それ自体が移動する速さ」を指す言葉である。「ギガビット・イーサネットの速度」を日常で使う速度に当てはめれば,電気信号がケーブルを伝わっていく速さになる。この速度は,当たり前だが,100メガ・イーサネットであってもギガビット・イーサネットであっても同じだ。

 「速度」という言葉の使い方の違いを確認したうえで,話を元に戻そう。冒頭の実験で,スループットは92Mビット/秒しかでなかった。一般的に見て,100メガ・イーサネットのスループットは最大で70M~90Mビット/秒程度だといわれる。この結果だけを比べると,それほど大きな違いではない。ただし,別の視点に立つと,両者の違いがくっきりと見えてくる。それは,一つひとつのイーサネット・フレームが送り出される部分のミクロ的な視点だ。