フレームの送受信にかかる時間は10分の1

 このミクロ的な視点に立って,1500バイトのイーサネット・フレームを100メートルのケーブルでつながった先の相手に送り出す場合を想定する。このシチュエーションで,ギガビット・イーサネットと100メガ・イーサネットにどういった違いが現れるのか,ざっくりと見ていこう。

 1500バイトのフレームをビットに換算すると1万2000ビット。これを1Gビット/秒で送り出すのにかかる時間を計算すると,12マイクロ秒となる(注2)。100メガ・イーサネットの場合は,単純に時間が10倍に伸びるので120マイクロ秒かかる。この数字は,USB対応のLANアダプタでもパソコン内蔵のLANポートでも変わらない。

注2:イーサネット・フレームを送り出す前に送るプリアンブルの長さは考慮に入れていない。

 こうして送り出された電気信号が相手に届くのにかかる時間は,電気信号が銅線ケーブルを伝わる速度によって決まる。この速度は,光の速度の7割程度と言われている。ざっと秒速20万キロメートルだ。この数値から,電気信号が100メートルの銅線を伝わるのにかかる時間を計算すると,およそ0.5マイクロ秒になる。

 つまり,フレームを送り始めた途端に相手には電気信号が届き,送り終えるのとほぼ同時に相手にすべてのフレームが届くということになる。送信側がフレームを送り出した瞬間から相手にフレームがすべて到着するまでの時間をギガビット・イーサネットと100メガ・イーサネットで比較すると,12.5マイクロ秒と120.5マイクロ秒の差ということになる。

 ギガビット・イーサネットと100メガ・イーサネットを並べて同時にフレームを送り始めた場面を想定すると,100メガ・イーサネットではまだ10分の1程度しかフレームを送り出していない時点で,ギガビット・イーサネットの方はフレームの伝送が完了していることになる。フレームを受信するときも同様だ。同じサイズのフレームを受信する時間は,ギガビット・イーサネットの方が100メガ・イーサネットの場合の10分の1の時間で済む。相手側のデータ処理速度が極めて高速であるなら,100メガ・イーサネットでデータを送っている最中に,ギガビット・イーサネットでは相手からの応答が返ってくるかもしれない。

 つまり,超高性能のコンピュータと通信するという理想的なケースなら,100メガ・イーサネットとギガビット・イーサネットで応答(レスポンス)時間に差が見られるようになるはずだ。

ギガイーサの利用で得られる本当のメリットとは?

 実際にはそんなに高速なパソコンはまだ少ない。レスポンスもスループットも,パソコンの性能に大きく依存する。特にスループットは,デバイス・ドライバの処理やバス速度,CPUの処理性能などに大きく左右される。

 ただし,クライアント・パソコンのLANの利用環境を考えると,この条件は足かせにならないかもしれない。クライアント・パソコンがLANで通信する相手は,Webサーバーやメール・サーバー,ファイル・サーバーなどのサーバーが中心になる。サーバーは高性能のパソコンを用意するケースが多いからだ。

 こうした利用環境では,数Mバイト程度のデータを瞬間的にやりとりするようなアプリケーションはいくつもある。一般的なWebアクセスや画像データベースの利用,ちょっと大きめのサイズのファイルを添付した電子メールの送受信などだ。これらのアプリケーションなら,サーバー側さえ高性能なパソコンを用意しておけば,仮にUSB2.0用のギガイーサ対応LANアダプタを使っていても,瞬時にレスポンスが返ってくるだろう。

 それに対して,スループットの違いが大きく影響するような場面,例えば,数Gバイトもの大容量ファイルをダウンロードする場面,というのはそうそう想像できない。よくよく考えれば,1Gビット/秒という速度は,1秒間に約100Mバイトのデータを送れる速さ。この能力をフルに出し切れないからといって,使い物にならないという結論を出すのは早計だ。

 パソコン側のインタフェースが何であれ,100メガ・イーサネットをギガビット・イーサネットに置き換えることで,ネットワーク・アプリケーションのレスポンス向上が期待できる。この効果は今のところ微々たるものかもしれないが,最終的に“ストレスなく”ネットワークを使えるようにすることが,ギガビット・イーサネットの利用で得られる本当のメリットといえる。これは,ネットワークを高速化する技術すべての目的ともいえるだろう。

 この場合の“ストレスなく”というのは,レスポンスがいちばん重要な要素になるが,スループットも含む話。「やっぱりスループットが気になる」という人ももちろん多くいるだろう。そこで,日経NETWORKの最新号(2005年4月号)では,パソコン用ギガイーサ対応LANアダプタのスループットに関する記事を掲載した。何も工夫していない状態のほか,環境や設定をいろいろと変えてみて,どこまでスループットが出せるのかを実験し,その結果をリポートしている。興味がある人はぜひお読みいただきたい。

(藤川 雅朗=日経NETWORK)