この提案書は専門用語が多く,
顧客にとって難しい内容になっています。
明日までに,分かりやすく書き直してください。
よろしくお願いします。

 一読して,相手が怒って冷たく突き放すように書いてきたように感じないだろうか。書き手はただ用件をストレートに書いているつもりでも,こうした「攻撃的メール」になってしまうことがある。

相手の気持ちを傷つける仕組み

 メールが相手の感情を害しやすいことには,心理学的な裏付けがある。

 さわりだけ説明すると,まずメールに限ったことではないが,私たちは自分の仕事ぶりや成果物に対して注文を付けられたとき,人格そのものを否定されたように感じる。このことがフェース・トゥー・フェースの会話であまり問題にならないのは,相手の様子を見ながら話すため,常に言い方に気を配るうえに,「ちょっと言い方がきつかったかな」と思ったときにはすぐにフォローするからである。これがメールだと,相手への気遣いがそもそも働きにくいうえに,読み手が怒ったり落ち込んだりしてもすぐには分からないためフォローもない。

 理由はもう1つある。フェース・トゥー・フェースの会話では言葉という「バーバルな情報」に加えて,表情や仕草,口調といった「ノンバーバルな情報」も同時に相手に伝わる。この「ノンバーバルな情報」が,相手の心理状態を推し量るうえで重要な役割を果たすのだが,メールではすっぽりと抜け落ちてしまう。

 そのためメールの読み手は,「バーバルな情報」だけで相手の心理状態を推測することになる。このとき読み手自身が怒ったり落ち込んでいたりすると,書き手が怒っているように感じがちだ。このことが,読み手の感情をさらに害することになる。

相手に配慮しつつ,言いたいことを伝える

 では,どうすればよいのか。大前提として気を付けるべきは,メールが相手の感情を傷つけやすいからといって,むやみにへりくだったり婉曲な表現にしないことである。言いたいことが明確に伝わらなくなって,本末転倒だ。相手の感情を害することなく,言いたいことを明確に伝える必要がある。そのための工夫や方法が存在する。ここでは,重要かつ実践しやすいポイントを3つ紹介しよう。

 1つ目は,「ありがとうございます」や「うれしく思います」といった相手に配慮する言葉を入れることだ。上記の例で言えば,「提案書を作成していただき,ありがとうございます」という一言を入れる。これだけで雰囲気がぐっと和らぐことが分かるだろう。

 自分を主語にした文章にすることも重要だ。これが2つ目のポイントである。「この提案書は専門用語が多く,顧客にとって難しい内容になっています」という文については,語尾が断定の形になっていて,書き手の判断が絶対であるかのような表現になっている。自分を主語にすると,「(私は)この提案書は専門用語が多く,顧客にとって難しい内容になっているように感じました」となり,表現が軟らかくなる。読み手にとって,断定されるよりも相手の指摘を受け入れやすくなるはずだ。