米Microsoftは2005年1月,スパイウエア対策ソフトとウイルス駆除ツールを相次いで公開した(関連記事)。「Windows AntiSpyware」ベータ版と「Windows Malicious Software Removal Tool」である。

 このニュースを聞いて,「今後はセキュリティ・ベンダーの対策ソフトを購入しなくても,ウイルスやスパイウエアから守られるようになるのだろう」と期待したWindowsユーザーは少なくないはず。だが,残念ながらそうはいかない。スパイウエア対策ソフトについては正式版が出るまで時間がかかりそうだし,ウイルス駆除ツールだけではウイルスを防げない。本稿ではこれらセキュリティ・ソフトを解説するとともに,同社の狙いを考えてみたい。

「SpyNet」で新種に素早く対応

 スパイウエア対策ソフトとウイルス駆除ツールは,ほぼ同時期にリリースされたため,両者には何らかの関係――例えば,連携して動作する――があると思われる方がいるかもしれない。だが,両者は全くの無関係。どちらもセキュリティに関係するソフトウエアだが別物である。連携して動くこともない。

 共通しているのは,いずれもMicrosoftが買収した企業の技術を使っているということだけだ。ただ,同社としては,同時に発表することで,ユーザーに与えるインパクトを強くしたいとの考えはあっただろう(Microsoftの発表資料)。

 最初にリリースしたのは,Windows AntiSpywareベータ版だった(関連記事)。Microsoftが2004年12月に買収した米GIANT Company Softwareの「GIANT AntiSpyware」をベースにしている(関連記事)。当初の予定通りとはいえ,買収からベータ版の公開まではわずか1カ月。ベータ版のプログラム名に「GIANTAntiSpyware」という文字列が含まれるところを見ると,ほとんど手を加えていないように思える。

 とはいえ,ベースとしたGIANT AntiSpywareはシェアウエアとして公開されていただけあって,ベータ版といえども完成度は高いようだ。海外メディアの記事などでは好評である。

 Windows AntiSpywareは,“一般的な”スパイウエア対策ソフトといってよい(一方,Windows Malicious Software Removal Toolは一般的なウイルス対策ソフトではない。詳細は後述)。よく使われているスパイウエア対策ソフト「Ad-aware」や「Spybot-S&D(Spybot Search&Destroy)」の競合製品である(関連記事)。

 Windows AntiSpywareは,既知のスパイウエアの特徴を収めた定義ファイルを使って,検査対象ファイルがスパイウエアかどうかをチェックする。この定義ファイルは,同ソフトの「AutoUpdater」機能により自動的に更新される。また,スパイウエアがパソコンにコピーされた場合などには,リアルタイムに検出してユーザーに警告する。これらは,他のスパイウエア対策ソフトも備える一般的な機能である。

 Windows AntiSpywareの特徴として挙げられるのは「SpyNet」機能だ。これは,「スパイウエアの定義ファイルには含まれていないが,スパイウエアかもしれない」とAntiSpywareが判断したファイルを,Microsoftに自動的に送信する機能である。報告されたファイルをMicrosoftが解析し,実際にスパイウエアだった場合には新しい定義ファイルに含める。この機能を使うことで,Microsoftでは新しく出現したスパイウエアにいち早く対応できるという。ただし,SpyNetに協力するかどうかは任意。インストール時あるいはインストール後でも,SpyNet機能を使わない設定にできる。

今後の予定はすべて未定

写真1●Windows AntiSpywareベータ版を日本語版Windowsで動作させたところ
表示が一部文字化けする
 無償で提供されているWindows AntiSpywareベータ版。「早く試してみたい」と思っている国内ユーザーは多いだろう。しかし残念ながら,現在(2月4日時点)提供されているのは英語版のみ。日本語環境では動作保証していない。編集部で試したところ日本語版Windows上でも動作するものの,画面表示が一部文字化けする(写真1[拡大表示])。日本語環境で試すのは,日本語版の公開を待ったほうがよい。

 マイクロソフトに問い合わせたところ,日本語版ベータの公開日や提供形態などは未定であるという。そればかりではない。英語版についても,今後の予定は明らかになっていない。「正式版はいつ公開されるのか」「どういった形で提供されるのか」などは,すべて未定である。

 AntiSpywareベータ版の画面表示を見ると,現在公開されているソフトは2005年7月31日までしか動作しないという。それ以降はどうなるのかについては,「現在は未定。近いうちに発表する」(マイクロソフト 広報)ということだ。また,「AntiSpyware Beta1」と表示されているので,今後「Beta2」などが公開されか可能性があるように思えるものの,これについても「公式には『Beta1』とはアナウンスしていないはず」(同)ということだった。

 近日中に何らかのアナウンスがあるとは思うが,とにかく,正式版が登場するまでには時間がかかりそうなことは確実である。できるだけ早くスパイウエア対策を始めたいユーザーは,Windows AntiSpywareの正式版を待つことなく,他のベンダーの対策ソフトを導入することをお勧めする。