「オープンソースは汎用機の技術者にウケる」――。こんな話を,インテグレータであるスターロジック 代表取締役の羽生章洋氏から聞いた。羽生氏は現在,汎用機のアプリケーションをオープンソースのJavaコンテナSeasar(関連記事)の上に移すプロジェクトを進めている。

 意思決定をしたのは,アセンブラでアプリケーションを書いた経験を持つ,初期の汎用機世代。彼らにとっては,OSやアプリケーションのソースコードは入手できることは当たり前で,隠蔽されている商用ソフトウエアはむしろ不自然。まだまだ汎用機のベンダー自身が手探りだった時代には、ユーザとベンダーが一緒になってソースコードまでさかのぼり,問題解決に挑戦するのが当たり前だったからだ。

 アセンブラを操るぐらいだから,コンピュータの動作を機械語レベルでとらえている。グラフィカルな開発ツールを見て「なるほど,これしか使っていないと,中で何が起こっているか分からなくなる」と感想を持つ人も多い。ソースコードがあるのなら,これ以上信頼できるものはないということで「本当に実力のある汎用機世代は,オープンソースに対する抵抗を持たないのだと改めて実感している」と羽生氏は語る。

意外に多い汎用機技術とオープンソースのかかわり

 そう言われてみると,確かにオープンソースの世界で,よく汎用機の技術を見かける。Linuxは汎用機上に移植されており,すでに実際のシステムで使用されている(関連記事)が,それだけではない。オープンソースに,汎用機から多くの技術やノウハウ,そして技術者が流れ込んでいる。

 日本医師会は「日医標準レセプトソフト」を開発し,オープンソース・ソフトウエアとして公開している(関連記事)が,すでに1200以上の医療機関が導入したというこのソフトの主要部分はCOBOLで書かれている。またこのシステムには,前Linux協会会長でネットワーク応用通信研究所の生越昌己氏が開発したオープンソースのミドルウエア「MONTSUQI」が使われているが,MONTSUQUIは富士通のTPモニタ(トランザクション処理モニター)であるAIMを参考にしており,AIMを知っている技術者であれば容易に習得できるという。

 ちなみに,ORCAで使用されているCOBOLコンパイラも,オープンソースの「OpenCOBOL」である。西田圭介氏が中心になって開発している。

 COBOLアプリケーションをオープンソースのWebアプリケーションにしようとしているNPO法人もある。オープンソースのビジネス活用を推進するNPO法人OSCARアライアンスは,COBOLで書かれた古い業務アプリケーションを募集している。買い取ってLinuxやUNIX上で動くPHPアプリケーションに変換し,オープンソース・ソフトウエアとして無償公開するためだ(関連記事)。

 Smabaユーザ会の初代代表幹事を務めたミラクル・リナックスの小田切耕司氏は,元汎用機の技術者。「汎用機での経験はLinuxでも生きている」という。障害が発生したとき,汎用機では「原因は不明ですが再起動したら直りました」では済まされない。再発を防ぐために,原因を究明して修正しなければならない。小田切氏は「こういった汎用機での経験があるからこそ,ミラクル・リナックスでは,障害原因のためのカーネル・ダンプをいちはやく標準搭載した」という(関連記事)。

 汎用機のほかにも,最近活躍が目立つ“レガシー・システムの技術者”がいる。電話網の交換機の技術者だ。VA Linux Systems Japan 高橋浩和氏らは,Linuxで稼働中にメモリーを交換するメモリー・ホットプラグ機能を開発中だ。高橋氏はもともとメーカーで交換機OSの開発に携わっていた(関連記事)。

 交換機は旧世代のシステムという印象もあるが,きわめて高い信頼性が要求されるため,システムを停止させないための様々な機能がある。NTTコムウェアでは,稼働中のLinuxにメモリー上でパッチを当てる機能を開発中だ。ライブ・パッチと呼ぶ(関連記事)。Linuxを通信事業者で利用するための仕様Carrier Grade Linuxで要求されている機能のひとつだ。

プロプライエタリの長所とオープンシステムの利点

 汎用機は長い時間をかけて業務システムで多くの資産を蓄積してきた。また可用性を向上させるための機能を試行錯誤しながら確立してきた。考えてみれば,オープンソース・ソフトウエアも,汎用機や交換機と同じノイマン型コンピュータを基盤としたソフトウエアなのだから,過去の資産とノウハウが有効なのは当たり前のことかもしれない。

 初期の汎用機では,メーカーごとに固有ではあるが(そのために高コストではあったが),ユーザーもコードを見て,改良する機会があった。オープンソースでは,その名の通りソースコードは公開され,自由に改変できる。汎用機や交換機の技術者が存分に腕を振るえる環境もあるということだ。修羅場を乗り越え,豊富な経験を持つ汎用機や交換機の技術者が元気になり,その成果がまたユーザーを便利にしてくれるとしたら・・・ちょっと話ができすぎだろうか。

(高橋 信頼=IT Pro)