開放系としてのオープンシステム

 冒頭に紹介した読者はオープンシステムの定義として「特定ベンダーからの独立性」に「開放系」を加えていた。このうち開放系とは系(システム)が開放(オープン)であるという意味で,別にITの専門用語ではなく大昔から使われている。例えば環境問題を論じるときに「開放系か否か」といった表現が使われる。世の中全体を見渡すと,オープンシステムと言ったときに開放系を想起する人のほうが多いだろう。

 この読者と電子メールでやり取りしたところ「強いて言うとネットワークにつながって,ネットワークに依存したシステムのことでしょう。物理的なクローズド・システムとは違って(定常)解がそもそも得られないシステムというわけです」という返信があった。この定義だけを採用すると,利用しているハードウエアやOSとは無関係に,オープンかどうかが決まる。つまり「単一ベンダーの製品だけで構成したプロプライエタリ・システム」であっても開放系としてのオープンシステムを構築可能である。

広いココロで作った情報システム

 長々と書いてきたが,まとめをしたい。強調したいのは二点である。「オープンシステムというときに,何がオープンなのかを明示する」。ベンダー非依存のことなのか開放系のことなのか。システムのことか製品アーキテクチャのことなのか。こうした点をはっきりさせておく。

 第二に「オープンシステムが良いとは限らない」ということを強調したい。オープンシステムの定義のうち,開放系について考えてみる。開放系の最たるものはインターネットに接続するWebシステムであろう。外部に開放した結果,大量のごみやばい菌がシステムに入ってきてしまう。クローズド・システムであれば,こうした問題は起きない。

 ベンダー依存のプロプライエタリ・システムが悪いとは言い切れない。先に見たように完全にベンダーから独立することは難しい。複数ベンダーの製品を組み合わせるにはそれなりの技術力が必要になる。ベンダー独立が簡単でないなら,あえてプロプライエタリ・システムを選択することがあってもよい。その場合「今回の案件についてはプロプライエタリ・システムを採用した方が開発を早く終えられる」といったビジネス上の効果が見込めることが前提になる。

 最後に,オープンシステムに関して筆者に電子メールを送ってきた読者をもう一人紹介する。IT Proの井上望編集長である。彼は重工業の企業に制御系システム設計者として勤務した後,日経コンピュータの記者に転身し,日経オープンシステムに移って編集長を務めた。筆者の短文を読んだ彼は次のメールを送ってきた。


【読者(?)の意見その4】
10年以上前,日経オープンシステム初代編集長に「そもそもオープンシステムって何ですか?」と聞いたところ「『広いココロで作った情報システム』ってことでありはりはりますね」という答えが返ってきたことを思い出しました。あまりにもアバウトな定義(?になってない?)ではありますが,以来,私にとっては一番しっくり来る定義(?)になっております。この意味では世の中まだまだオープンシステムにはなってないのかもしれませんね。

 井上に「気持ちは大変よく分かります」とメールを送ったところ,返信が来た。彼が日経オープンシステム初代編集長に裏をとりにいったという。初代編集長の回答は以下の通りであった。


【日経オープンシステム初代編集長の意見】
『広いココロで作った情報システム』と言ったかどうかは覚えていないが,僕はオープンシステムを要するに,派閥を作らない,ことと考えていた。もっと普通に,正々堂々と,隠さないで物事をやる。もっと世の中のことを考える。こそこそと隠れてなにかしない。そしてもっともっと人の“思い”を理解しないといけない。

 プロプラエタリとは派閥ということ。それを理解する人だけを集めるから。プロプラエタリそのこと自体は悪いことではない,独自OSだって独自社長だって,正々堂々としていればよい。でも往々にして派閥は悪しき方向に行く。そこを変えていかなければならない,と言いたかったから,日経オープンシステムを作った。

 「ふざけた定義だ」と立腹される読者もあるかもしれない。しかしそれでは「広いココロ」を持っているとは言い難い。「メインフレームをとにかく捨てる」「Windowsはクライアント以外には使わない」「サーバーからクライアントまで,すべてWindowsに統一する」「マイクロソフト製品を一掃しオープンソースに移行すべき」「Javaを使えなければプログラマではない」。どれもこれもココロが広いとは言えない。

 今回のコラムを書き上げて井上に送ったところ,さらにまた電子メールが送られてきたので,その文面を追加しておく。

 「先日公開した『大切なことはみんな汎用機から学んだ――ミラクル・リナックス 小田切耕司氏』を思い出しました。私は小田切氏の発言を「ああ,広いココロだなぁ」と涙ながらに読みました」

(谷島 宣之=日経ビズテック)