「記者の眼」で取り上げるネタを筆者はおおよそ三通りのやり方で決めている。一つは,自分が書きたいと思ったネタをとにかく書く。なぜそれを取り上げたかと問われると答えに詰まる場合が多い。二つ目は筆者がかかわった雑誌やセミナーの内容をお伝えしたいと思った場合である。

 今回の記者の眼においては,三番目のやり方で決めたネタを取り上げる。それは,読者から反応があったネタである。雑誌やWebサイトに書いた原稿,あるいは情識にちょっと書いた原稿に対し,読者からメールをいただいたたり,お電話を頂戴することがある。読者の反応が複数あった場合は「このネタは受ける」と勝手に判断し,記者の眼に仕立てている。

 読者から反応があったのは「オープンシステムとは何か」というネタである。IT Proの読者の多くは「今さらなんだ」と思われるかもしれないが,お付き合いいただきたい。まず始めに,発端となった記事の概要と読者とのやり取りを紹介する。

Webを巡る読者とのやり取り

 発端となったのは,10月19日付の日本経済新聞朝刊に「日本IBMがスルガ銀行から次世代基幹システムを受注した」という記事が掲載され,その特徴として「オープンシステムを採用したこと」と書いてあったことである。朝,新聞を読んですぐに「銀行のオープンシステム」という短い文章を書いた。

 ここでは,オープンシステムとメインフレームを対立するものととらえるのはおかしい,と言いたかった。面白かったのは翌日20日に日本IBMが発表した文書である。それによるとスルガ銀はメインフレームを採用する。つまりメインフレームを採用するがオープンシステムである,ということになる。

 一人で面白がっていてもしょうがないので,この話をふくらませ,日経ビジネスEXPRESSというサイトにコラムを書いた。11月4日付で公開された「IT業界で長持ちする「オープンシステム」という言葉」がそれである。日経ビジネスの読者以外にも伝えようと,情識に「続・銀行のオープンシステム」と題して短文を書いた。さらに日経ビジネスEXPRESSの記事は11月9日,ビジネスイノベーターというサイトにも転載された。

 「IT業界で長持ちする『オープンシステム』という言葉」と題したコラムの書き出しはこうである。


流行語が出ては消えるIT(情報技術)の世界にあって,長生きしている言葉に「オープンシステム」がある。1980年代からこの言葉はあったから,もう20年近く使われているだろう。長寿の理由は,この言葉が明るい印象を与えることと,定義が曖昧であることだ。

 この記事を読んだ知り合いが電子メールを送ってきた。コンピュータ・サイエンスやソフトウエア・エンジニアリング,開発言語などに非常に詳しい方で,大学で講義もなさっている。いつもは極めて温厚冷静な人なのだが,今回のメールの文章はいささか尖っていた。


【読者の意見その1】
(日経ビジネスEXPRESSのコラムは)ちょっと迫力不足に感じました。その理由の一つは,IBM担当者やスルガ銀行担当者の取材がないからでしょう。もっと本質的には,オープンシステムの曖昧さを叩き潰せていないからだと思います。「closed systemのススメ」が出てくるのかと期待していたんですがね。
 ユーザーの観点をとりあげておられます。先だって大学で講義したとき,オープンシステムについて二つの定義を学生に与えました。「開放系」と「特定ベンダーからの独立性」です。これに対し,コラムの中の定義は「アプリケーションの移動」と「データ交換」になっているようです。正直言って定義が甘すぎるように思います。この定義ならオープンでないシステムを探す方が難しいのでは?ついでにIYバンクのWindowsによる基幹システムの話(関連記事)がなかったのも残念でした。

 この読者が指摘している通り,筆者は日経ビジネスEXPRESSの記事で次のように書いた。


 大事なことは,ユーザー,つまりコンピュータを買う顧客にとっての利便性の観点からオープンを定義することである。大抵のユーザーは複数のシステムを持っている。あるシステムがオープンかどうかは大きく言って次の2点で決まる。

 一つはアプリケーション・ソフトをシステム間で移動できること。あるシステムの上で動かしていたアプリケーションを別のシステムの上で動かすことができれば何かと便利である。もう一つは,あるシステムと別のシステムとの間で簡単に会話ができること。会話とは曖昧な表現だが,あるシステムのデータを別のシステムに送信したり,あるシステムに入っているデータを別のシステムから利用できることを指す。

 この二つが実現できれば,ユーザーにとって利便性が高まる。大昔,異なるコンピュータ・メーカーのメインフレームでシステムを作ってしまうと,システム同士でアプリケーションを移動できなかったし,会話をさせるだけでも一苦労であった。


 「アプリケーションの移動」と「データ交換」とは,ポータビリティとインターオペラビリティという言葉に対応している。ITの専門家ではない人に向けて,分かりやすく書いたつもりだったが,確かにこれでは何でもオープンになってしまいかねない。

 11月4日,別な読者が情識に次のような書き込みをしてくださった。