日経ソリューションビジネスの11月30日号で,富士通の企業研究をまとめた。といっても全社レベルの話ではなく,システム・インテグレーション(SI)などソリューション事業の改革への取り組みにフォーカスした。タイトルの「富士通のSI改革はITサービス業界を幸せにできるか」とは妙な言い方だが,今回“富士通もの”を書いてみようと思った著者の問題意識を反映している。

ITデフレにリーディング・カンパニーの責任

 パソコン分野のように徹底したコモディティ戦略を採るならいざ知らず,リーディング・カンパニーが自ら率先して値崩れを引き起こし,疲弊していく業界は珍しい。ITサービス業は,日本経済が比較的好調でIT投資が回復基調の今もデフレが止まらない。仕事を確保しようと,要件も曖昧なまま安値受注に走り,結果として失敗プロジェクトとなり巨額損失を出す。ITサービス業界でここ数年続いてきた現象だ。

 「ユーザーの料金引き下げ圧力が強く・・・」とは,富士通も含め決算発表でITサービス会社が用いる言い訳の常套句だ。しかしデマンド・サイドだけの事情では,こんな事態に立ち至らない。2000年問題が収束して以降,ITサービス,特にSIは完全な供給過剰に陥っている。そんな中,ITサービス会社が価格しか勝負するタマを持たないから,こんな事態に陥ったのだ。

 富士通だけに限ったことではないが,コンピュータ・メーカーは,このデフレに大きな責任を負っている。ハードを抱き合わせるなどをして,“戦略価格”と称し利益を度外視して,SI案件を取りに行く。それがユーザー企業のSIに対する相場感を下落させ,自らの首を締めることになった。まして富士通は,ITサービス業においてもリーディング・カンパニーである。その企業が率先して価格競争に走り,不採算プロジェクトを続発させていたのだから,周りはたまらない。

 そんな富士通が今年6月から,SIなどで適正な利益の取れる事業構造の構築を目指して改革に乗り出した。この改革が,ITサービス業の地滑りに歯止めをかけるきっかけになるのであれば,ライバル企業も含めITサービス業界は大歓迎だ。まさに,富士通の改革の成否は,業界が“幸せ”になれるかどうかに直結しているのである。

ソリューション事業の大改革目指す「SBR」

 富士通社内では今,SBRという言葉が飛び交っている。ソリューションビジネス・リストラクチャリングの略称だ。SIなどのビジネス構造を抜本的に改めようというもので,6月の“製販統合”,SEと営業の一体化を皮切りに,SIにおける工事進行基準の導入,アカウント・マネジャー/アカウント・プランの導入など中身は多岐にわたる。

 富士通は昨年度(2004年3月期)に,ソフト・サービスだけで683億円もの特別損失を計上した。今期以降に見込まれるSI案件での損失などを前倒し処理したもので,現場が抱え込んでいた不採算案件を早めに“白状”させたわけだ。それでも抱え込み続けた不採算案件についても,今期約200億円の損失として処理する。

 徹底的にウミを出し切って臨むSBRだけに,富士通は相当本気だ。黒川博昭社長の朴訥な人柄を反映してか,改革のスローガンは「強い会社」「顧客起点」「利益重視」など“当たり前感”のあるものが並ぶ。しかし,その内実は富士通やグループ企業の中だけにとどまるものではなく,顧客との取引慣行,ディーラーや開発協力会社との関係にも及ぶ大改革なのである。

 SBRの中身を詳しく知りたい方には,日経ソリューションビジネスを読んでいただくとして,そのポイントを記しておく。まず,SEと営業の一体化。富士通はこれまで,SEと営業は別組織で,営業は売り上げ(受注)責任のみで,利益責任はSEが負っていた。両者でもめると,場合によってはそれぞれの担当専務のところまで行き,最終的には社長の判断を仰がなければならない。そんな体制だった。

 右肩上がりの時代にはそれなりに機能したが,ここへ来て機能不全を起こした。営業は売り上げ確保のために安値受注に走り,SEは不採算プロジェクトを抱え込み抜本解決を先送りにするといった弊害が目立つようになったのだ。そこで6月の組織改革では,業種別のビジネス本部にSEと営業を統合し,売り上げ責任と利益責任の両方を本部長が負う形にした。

工事進行基準,アカウント・プランなども導入

 プロジェクト管理面での改革の目玉となるのが,国際会計基準にのっとった工事進行基準の導入だ。建設業界などで採用されている会計基準で,工事の進ちょく度に応じて売上高と費用,利益を随時計上する。富士通は,月単位にユーザー企業に検収してもらい,売上高,費用などを確定できるようにする。

 従来の分割検収と異なるのは,売上高に費用が明確にひも付いていることだ。しかも,月単位で精度の高い進ちょく管理を目指す。管理会計的に個々のプロジェクトを統制することで,「システムが完成したら,巨額の赤字だった」という事態を避けようというわけだ。現在は試行段階で,来年度から本格的に導入するという。