自宅にある筆者のパソコンの電源は入れっぱなしが常。家を空けている間に家族が使うから,というのがその理由だ。といってもパソコンそのものを使いたいのではなく,パソコンからネットワーク経由でプリンタや写真データを利用するのが目的だ。使うときだけ電源を入れれば良いと思うのだが,筆者の部屋に赴き起動するのを待っている間に印刷機会は去っていくのだと言う。自作パソコンの宿命か「スタンバイ」と「休止状態」からの復帰にしばしば失敗するので,それら待機機能は筆者も含め信用されていない。

 そんな理由でPentium 4 2.6GHz搭載のパソコンが起床から就寝までサーバーとして動いている。簡易電力計でアイドル状態の消費電力を計測してみると約80Wと出た。昼間から電球1個を付けっぱなしにするのと同程度の消費電力だと思うと,常日ごろ玄関や洗面所の電気を消し忘れて怒られる自分は何なのだという気持ちになる。

 というわけで,以前から個人向けのファイル・サーバー・アプライアンスを探していた。いわゆる「NAS(Network Attached Storage)」である。気になるのは性能,機能,大きさ,そして価格。個人で買うなら低価格パソコン並みの3万円前後が望ましい。NASへの投資が10年経っても回収できないようでは本末転倒だ。2003年から2004年にかけてしばらく様子をうかがっていたところ,だいぶ製品の種類が増えていた。今では個人向けのNASは量販店の陳列棚の一角に定住する製品になりつつある。

 そこで執筆したのが,10万円未満の個人向けNASを対象にした日経バイト2004年11月号「個人向けNASの力量」だ。詳細は本誌をご覧いただくとして,ここでは製品を買うユーザーの視点から問題だと感じた点をまとめてみたい。なお,以下に登場しない個人向けNASの多くは実用上問題なかったことを付け加えておく。

USB 1.1並みの速度しか出ない

 まず驚いたのが,ファイル転送の速度が12Mビット/秒前後の製品がある点だ。該当する製品はコレガの「CG-NSADPCR」とロボスの「LB-SS01TXU」。いずれもUSB接続のハードディスクを別途追加するタイプの製品。すでにUSBハードディスクが手元にあるのであれば,1万円前後で安価にNASを構築できるのが売りだ。12Mビット/秒と言えばUSB 1.1のデータ転送速度の理論値と同じ。Windowsクライアントから100Mバイトのファイルを読み書きするテストを実施したのだが,その際の体感速度はかなり遅かった。

 複数機器からのアクセス時に2クライアント目から既に頭打ちという製品があったのにも驚いた。ノバックの「NV-NAS390」だ。ベンチマーク・テストに使用したのは,複数ユーザーによるファイル共有性能を測定する米Lionbridge Technologies社のベンチマーク・ソフト「NetBench」。NetBenchはネットワーク・ドライブを作業領域にした文書作成をシミュレートし,その際に読み書きしたデータの総量(スループット)を測定する。仮想クライアントを1から16まで増やした際のスループットの変化を見た。

 ほとんどの製品がクライアント数に比例してスループットが上がっていく中,NV-NAS390は2クライアントで約23Mビット/秒,3クライアントからは漸減する結果となった。個人向けのNASは同時アクセスが多発することを前提とした機器ではないものの,あまりにもスループットが低すぎる。NV-NAS390は3.5型ハードディスクを別途追加するベアボーン・キットだが,この製品に限れば組み合わせるのは5年前のハードディスクでも事足りる。

CPUとメモリーでほぼ決まる

 速度差の要因はごく当然の仕様差にある。CPU性能とメモリー容量だ。今回計測した限りでは,CPUの動作周波数とメモリーの容量で性能がほぼ決まるようだ。

 先に12Mビット/秒前後のファイル転送速度しか出ないとしたCG-NSADPCRとLB-SS01TXUは,どちらもCPUが175MHz動作の「ADM5120」(MIPSコア)を使用している。メモリーは8Mバイト。2クライアントで頭打ちになったNV-NAS390は,CPUが170MHz動作の「MSP2006」(MIPSコア)でメモリーは32Mバイトだ。他のNAS製品は動作周波数が200MHz超で,メモリーは64M~256Mバイトほど搭載している。CG-NSADPCRとLB-SS01TXUはUSBハードディスクを外付けするタイプ。USBの制御にCPU資源を割かれる。NV-NAS390はUSB制御のオーバーヘッドはないが,CPU性能とメモリー容量の少なさがあだとなったようだ。

 もちろんUSBを外付けにする製品の中にも比較的高速な製品はある。アイ・オー・データ機器の「USL-5P」だ。CPUは同社の個人向けNAS「HDL-250U」と同等だという。HDL-250UのCPUは266MHz動作の「SH-4」。個人向けNASとしてはトップ・クラスの性能を持つ。USL-5Pは本誌記事には間に合わず,後日試作機でベンチマーク・テストを実施した。結果は読み出し36Mビット/秒(HDL-250Uは39Mビット/秒),書き込み40Mビット/秒(同54Mビット/秒)となった。これなら実用レベルの性能と言える。HDL-250Uより劣るのは,おそらくメモリーの容量がHDL-250Uより少ないためだろう。

OSの種類も指針に

 CPUとメモリー以外の要素として重要なのがOSだ。CPUの動作周波数が低くメモリーが少なくとも,軽量なOSとネットワーク・サービスをもって性能を上げられる余地がある。ただハードウエア性能の低さをソフトウエアで補おうとすれば,プログラムのステップ数を可能な限り減らさなくてはならない。少ないメモリーでどうバッファリングするかというアーキテクチャはもちろん,突き詰めれば機械語レベルの最適化に血道を上げる必要がある。

 とはいえ個人向けNASのOSは,開発期間の短縮とコストの削減を図る目的で組み込み向けのLinuxを採用する場合が多い。ファイル共有サービスもSambaがほとんどだ。つまり階層化された重いプログラムが動作する。それでいてCPU性能が低くメモリーも少なければ遅いのも当然だろう。例えばOSをフルスクラッチで開発したサイレックス・テクノロジーの「PRICOM SX-5000U2」はメモリー容量が8Mバイトながらいくぶん性能が良い(注)。読み出しが23Mビット/秒で書き込みが25Mビット/秒。CG-NSADPCRとLB-SS01TXUと比べてほぼ2倍の性能だ。

注:SX-5000U2は安価にUSB接続のスキャナをネットワーク共有できるのが売りの製品で,ファイル共有はどちらかと言えば“オマケ”という位置付けだ。

買ってみるまで性能が分からない

 以上の傾向は製品を使ってみないと分からない。高速な製品の場合はあまり問題にならない。そもそも高速なことをカタログやWebサイトでアピールするのが普通だ。問題は低速な部類に入る製品だ。例えばCG-NSADPCRとLB-SS01TXUは,速度を判断する材料が製品仕様やカタログに含まれていない。NV-NAS390は製品紹介のFAQで参考速度を提示しているが,2台以上の共有時に速度が低下するのは使ってみて初めて分かることだ。

 せめてCPUの動作周波数とメモリー容量,そしてOSの種類を製品仕様として公開してほしい。CPUの種類や動作周波数,メモリー容量とOSが明記されていれば,おおよその当たりはつく。購入してから落胆するユーザーが出るより,顧客満足度は高いはずだ。

 公開することで購入を踏みとどまるユーザーが出てくるかもしれないが,そもそも少し調べれば分かることだ。インターネットで検索すれば性能に関する情報を先達が公開している場合がある。保証外の行為となるが,CPUとメモリーは分解すれば一目瞭然だからだ。低コスト化の一環で組み立てやすい筐体になっているため,分解するのはそれほど難しくない。OSの種類はライセンスがGPLならLinux,と判断できる。購入してからtelnetのログイン・メッセージで判別することも可能だ。

 ちなみに筆者が購入したのはバッファローの子会社シー・エフ・デー販売の「KURO-BOX(玄箱)」。基本性能の高さもさることながら,OSをDebian GNU/Linuxに入れ換えるノウハウがネット上で数多く公開されていることが決め手となった。自分の好みにカスタマイズできる。早速ファイル・サーバーとプリント・サーバー,Wake on LANの起動サーバーとして使用中だ。難を言えば,プリント・サーバーではありがちな話だが双方向通信ができない。プリンタのインク残量を示すインジケータがOSから見えないのも精神衛生上悪くない,と自分を納得させて使っている。

(高橋 秀和=日経バイト)