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アンケートで分かった「心の病」の悲惨な実態

2004/11/09

 日経ITプロフェッショナルの11月号で,「心の病」に関する特集を組むため,9月にWebサイトでITエンジニアを対象にアンケート形式による実態調査を行った。前回のこのコラムで協力のお願いをしたところ,有効回答だけで2706人に上る方に回答いただいた。この場を借りて,御礼を申し上げます。

 「心の病」について,ほとんど知らない人がいるかもしれない。耐え難いほど落ち込んだ気分が続いたり,何ごとにもやる気や興味を失ったりする「うつ病」。強い不安を覚えたり発作に襲われる「神経症」。胃痛や頭痛,性機能障害など体の不調となって表れる「心身症」──。これらストレスが主な原因となって起こる病気が,心の病だ。

 こうした心の病が,ITエンジニアの間で少なからず広がっている状況は,アンケートを取る前の取材で想定していた。結果から浮かび上がったのは,想像を超えた悲惨な状況だった。今回はその報告をする。

約2割が「医師に心の病と診断された」

図A
図A●医師から,心の病であると診断されたことがあるか
医師に心の病と診断されたことのある回答者が,約2割に上った。病名(複数回答)は,診断された人の65.6%を占めるうつ病が最も多く,次いで神経症と心身症がともに16.2%,それ以外の心の病は20.5%だった

図B
図B●心の病になった原因ときっかけは何だと思うか(複数回答,有効回答515人)
心の病と診断されたことのある人を対象に,原因やきっかけが何だったと思うかを聞いた。トップは「仕事上の失敗や仕事の内容」で57.5%。「長時間労働」が51.7%で続き,「上司との人間関係」を挙げた人も43.0%と高かった。逆にプライベートにおける問題を原因として挙げたのは27.2%に過ぎない
[図をクリックして拡大表示]

図C
図C●心の病の治療のために,延べにしてどれだけの期間休職したか,または休職中か(有効回答236人)
約半数が3カ月以上休職している。心の病で休職すると,すぐには職場復帰できないケースが多い

図D
図D●勤務先に,心の病と診断された社員の治療や復帰を支援するための社内的なルールがあるか
心の病の治療や復帰を支援する社内的なルールがあると答えた人は14.8%にとどまった

図E
図E●休職からの職場復帰後,人事に関する変化があったか(複数回答,有効回答203人)
治療のための休職から職場復帰を果たした回答者に,その後の処遇を聞いた。「何も変わらない」と答えた人は28.1%にとどまった。「異動や転勤になった」と答えた人は3割を超え,「自ら転職した」人も15.3%に上る
[図をクリックして拡大表示]
 ITエンジニアの間で,どれだけ心の病が広がっているのか。これを調べるために,アンケートでは,「医師に心の病と診断を受けたことがあるか」,「心の病だと感じたことがあるか」,「心の病になった人を勤務先で実際に知っているか」という3つの質問をした。これらの質問に「Yes」と答えた人はそれぞれ19.4%,55.0%,74.9%だった。

 このうち特にショックだったのは,医師に心の病と診断を受けた人が約2割に上ったことだ(図A)。記者としては,過去の他誌の調査結果などを基に,心の病と診断を受けたことがある人は1割ぐらいだと思っていた。結果は先述の通り,予想をはるかに上回った。多くの職場に蔓延しているという状態だったのだ。

 ただしメンタルヘルスに関心の高い人が今回のアンケートに回答したために,数字が高く出た可能性がある。そこで取材した医師やカウンセラー,IT企業のメンタルヘルス担当者などに意見を聞いたが,総じて「実感としてあり得る数字」との答えが返ってきた。

 つまり心の病は,一部の人だけがなる特殊な病気ではない。このことを認識していただきたい。取材した医師やカウンセラーによれば,「真面目で責任感の強い人ほど心の病にかかりやすい」という。ITエンジニアに最も多いタイプだと思うのは,筆者だけではないだろう。あなた自身,あるいはあなたの部下に当てはまらないだろうか。

職場で悩みを抱え,誰にも相談できない

 心の病を引き起こした(過剰なストレスの)原因は何か。その問いに対する回答の集計結果を,図B[拡大表示]に示した。上位3つの原因は,「仕事上の失敗や仕事の内容」(57.5%),「長時間労働」(51.7%),「上司との人間関係」(43.0%)と,いずれも仕事上のものだった。プライベートな悩みを原因に挙げたのは,4人に1人に過ぎない。心の病の大部分は,職場で引き起こされている。

 実際に,ITエンジニアは日々強いストレスにさらされている。コスト削減のためプロジェクトの人員は削られ,一方で納期や品質の面で従来よりも高いパフォーマンスを要求される。結果として,メンバー1人ひとりの作業量が増えて,長時間労働が慢性化している。また成果主義の人事制度の導入が進んだことや,次々に新技術が登場したり,将来のキャリア・パスを描きにくい,といったことも,心の病と無関係ではないだろう。

 さらに,ITエンジニアの職場で日ごろのコミュニケーションが希薄になっていることも,心の病を増やす原因の1つと言える。ストレスをため込まないためには,悩みを聞いてくれる相談相手の存在が極めて重要だからだ。ところがアンケートでは「どんなことでも話を聞いてくれる相談相手がいるか」と聞いたところ,40.0%の人が「いない」と答えた。

 無理な仕事を任されたり,長時間労働を強いられたり,職場の人間関係で悩んだりしても,相談に乗ってもらう相手さえいない──。そういうITエンジニアが少なからずいる。心の病の蔓延は起きるべくして起きている,と言えるだろう。

72.1%が「いまだに完治していない」

 心の病がやっかいなのは,すぐには治らないことだ。医師から診断を受けた人に,治療やカウンセリングを受けるために休職したかどうかを聞いたところ,半数近くの人は「休職した」と答えた。さらに,そのうちの半分が,休職期間が3カ月以上だった(図C)。つまりほぼ4人に1人が,3カ月以上の長期休職を余儀なくされている計算になる。

 しかも,それだけの期間にわたって休職しても,完治するとは限らない。アンケートで「心の病が完治した」と答えたのは27.9%。残り72.1%は完治に至っておらず,今も心の病と闘っている。心の病にかかると,数カ月,場合によっては1年以上にわたり根気よく治療を続ける必要がある。

後れを取る企業としての対策

 心の病が蔓延することは,IT企業にとって死活問題である。にもかかわらず,企業の対策は後手に回っているようだ。アンケートで回答者の勤務先の取り組みについていくつか聞いたが,最も象徴的だったのは,「勤務先に,心の病と診断された社員の治療や復帰を支援するための社内的なルール作りがある」と答えた人が14.8%にとどまったことである(図D)。

 ここで言うルールとは例えば,医師の診断書があればただちに休職を認める,職場復帰するときには休職前に所属していた部署に戻す,といったことだ。こうした社内ルールがないと,心の病にかかった人が職場でつらい立場に追い込まれることになる。

 そのことはアンケートでも,明らかになった。図E[拡大表示]は心の病と診断されて休職して治療にあたった人に,「職場復帰後,人事に関する変化があったか」という質問をした回答の結果だ。「異動や転勤になった」(30.5%)を筆頭に,「自ら転職した」(15.3%),「降格させられた」(7.4%),「退職を余儀なくされた」(6.4%)といった具合である。

自己防衛しかない

 強いストレスにさらされる職場環境にありながら,勤務先は心の病に関して何もしてくれない。となれば個々のITエンジニアは自己防衛するしかない。

 そこで先述のとおり日経ITプロフェッショナルは11月号で,「メンタルヘルスの必須知識」と題した特集を組んだ。心の病の予防や治療,職場復帰に関して,ITエンジニアが知っておくべき知識をまとめた。心の病の症状や治療法,ストレスとの付き合い方,心の病になった人へのサポート方法などだ。あなた自身,あるいは部下を心の病から守るために,ぜひともお読みいただきたい。

(中山 秀夫=日経ITプロフェッショナル)

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