日経コンピュータが毎年実施している「情報システム大賞」を担当することになった。

 情報システム大賞は,企業がその年あるいはその前年に構築したシステムのなかで,優れたものを発掘し,表彰するというもので,今年で第9回となる。外部の方々に審査員をお願いし,経営改革への貢献度,採用している技術の先進度などの観点で,どの分野で秀でているかを審査する(前回の受賞システム一覧へ)。グランプリは100万円,5分野に分けた部門賞は50万円の賞金付きだ。

 担当するにあたって,「今年はどんなシステムの応募があるだろう」と考えていて,一つ気になることがあった。企業が多額の資金を投じて構築したシステムは,どのくらい利用が進んでいるかである。

情報システムは「使ってナンボ」

 最近,個人情報保護関連の取材で,あるリスク・マネジメントのコンサルティング会社の方にお目にかかった。その際,こんな話題になった。「何十億円と投資したにもかかわらず,まったく使われないシステムがある。この投資って企業にとって,ものすごいリスクだと思いませんか」というものである。確かにそうだ。そのときの話題は住民基本台帳カードが中心だったのだが,企業の情報システムでも同じことが言えるだろう。

 機能不足で利便性が高くない,画面の操作性が悪く使いづらい,現場での利用シーンに合っていない――。システムが使われない理由はいくつも考えられる。

 少々古くなるが,日経コンピュータの2004年1月12日号に「使ってナンボ」という特集があった。そこにはまさしく,システムを活用しきれずに頭を痛めるユーザー企業の姿がある。せっかく何億円も投資して営業支援システムを構築したのに,現場の営業員はちっともデータを入力しない。報告業務は効率化できないままだし,営業員同士の情報共有も進まない。何とかできないか。こんな悩みを抱える企業は決して少なくないだろう。

ちょっとした発想の転換が大きな効果を生む可能性も

 そこで思いついたのは,こうした利用が進まないシステムは,ごく単純な発想の転換で利用が進むことがあるのではないか,ということである。具体的には,マン・マシン・インタフェースを変えることだ。システムの入出力に,デジタル・ペンや携帯電話を利用するのである。すべてのケースに当てはまるわけではないが,意外に効果が高そうに思える。

 例えばデジタル・ペン。スウェーデンのアノトという企業が開発した技術を実装したペンで,専用の紙(コストは普通紙の1割増程度)を使って帳票などを作り,デジタル・ペンで記入する。詳細な仕組みについてはここでは割愛させていただくが,これがかなり面白い。ペンで紙に記入したデータが,そのままシステムに入力される仕組みを実現できるからだ。

 ユーザー企業への取材で何度か話を持ち出したことがあるが,「へぇ~」度がかなり高かった。紙を使わなければならない業務,パソコンやPDAは持ち歩けない業務,現場ですばやくデータを入力したい業務,エンドユーザーがキーボードを使い慣れてない現場など,紙とペンにこだわりたい場面が少なくないからだ。これを無理やりシステム化すると,使われないシステムになりかねない。紙とペンを使えるなら,年配者などキーボードに違和感を感じるユーザーでもシステムを容易に利用できるはずだ。

 携帯電話の業務利用も同様である。いつでもどこでも片手で操作できる携帯電話は,多くの企業ユーザーが注目している。

いろいろなタイプの「優れた情報システム」に出会えるのが楽しみ

 このようなユーザー・インタフェースを変える取り組みが優れているのは,それほど膨大な投資を必要としない点だ。システムの基幹部分には手を加えず,フロントエンドだけを変更する。例えばデジタル・ペンなら,ペンから収集したデータをデジタル化して基幹システムに取り込むところまでを考えておけばいい。再投資のリスクは小さく,システムの利用を促進できる可能性は高い。

 多額の資金を投じて稼働にまで漕ぎつけたシステムはもちろんすばらしい。ただ,こんな視点で情報システムを眺めてみるのも面白い。ここに挙げたのはほんの一例だが,これ以外にも「優れた情報システム」にはいろいろなタイプがあるはずだ。

 実際,過去の情報システム大賞にも,筆者が予想もしなかった新鮮な視点で作られたシステムがいろいろあった。新たに構築した情報システムを通して,ユーザー企業/団体が何を考え,何を実現しようとしたかが見えてくると,記者としてはとてもワクワクする。今年の情報システム大賞には,はたしてどんな内容の応募があるか。楽しみにしている。

 今年(第9回)の応募締め切り――11月15日(消印有効)――が近づいてきました。ぜひご検討いただいて,ご応募いただければ幸いです。詳細は,こちらのページをご覧ください。皆様のご応募をお待ちしております。

(河井 保博=日経コンピュータ)