前回の「大募集! 動かないコンピュータが生まれる理由は何か――動かないコンピュータ・フォーラム(5)」で,皆さんが経験された動かないコンピュータの経験を募集したところ,100を超える回答があり,約70件の動かないコンピュータについての具体的なご意見をいただきました。

 長いご意見も短いご意見もありますがいずれも当事者ならではもので,記者は非常に興味深く読みました。今回は,この皆さんの書き込みのご紹介を中心にして,なぜ動かないコンピュータが生まれるのかを読者の皆さんと共に考えるための材料にしていきたいと思います。

 今回のフォーラムでは,皆さんからいただいたご意見をすべてご紹介します。非常に面白いものですが,記事も長くなっていますので,まずは半分程度に絞ってご紹介します。

 是非,この記事の最後の方にあるFeedBack!に,読者の皆さんからの動かないコンピュータ体験に対するご意見をお聞かせ下さい。皆さんのご意見を参考に,次回の動かないコンピュータ・フォーラムの内容について考えていきたいと思います。

4番目の動かないコンピュータがある

 前回,記者は動かないコンピュータには三つの種類があると書きました。一つ目は,到底不可能なプロジェクトをやろうとしたための失敗。二つ目は,システム開発のやり方がまずかったために,プロジェクトが失敗してしまったケース。三つ目は,システムは完成し無事に稼働していたものが,あるとき突然に不具合が発生して大きなトラブルを呼んでしまうというものです。

 ですが,皆さんからのご意見で,動かないコンピュータにはもう一つ別の種類があることを再認識しました。正確には,動かないというよりも「意味のないコンピュータ」とでも表現すべきかもしれませんが,企業にとって新たな価値を生み出していないという点から考えれば,動かないコンピュータだととらえてよいと思います。

 実際に頂いたご意見を紹介します。システムアナリストの青島さんによるものです(なお,ご紹介するご意見はトラブルの実態について前段で,皆さんがお考えになる原因について後段でご紹介しています)。



 記事の3ケースのいずれにもあてはまらないもの。実は,動かないコンピュータは意外に少ない。システム開発プロジェクトは,ほぼ成功し,安定稼働している。しかし,それを使う人や組織が動かないために,コンピュータが想定した威力を経営上発揮しないというもの。

 公知のように,リーダシップ,戦略シナリオや目標,適切な評価指標の欠如。あるいは,それらの組織への教育,浸透不足など。つまり,経営戦略とIT戦略の乖離,ITガバナンスの欠如だと考えられます。


 ほかにもこの種のシステムについてのご意見をいただいています。続けてご紹介します。



 正確には「動かない」ではなく「使えない」というべきか。計画通りに機能しても使いにくくて末端の仕事の能率を下げた。ある大手システム・インテグレータの開発した官公庁系の会計システムである。これの開発過程は,一言で言ってむちゃくちゃだったようだ。取材できたなら頭を抱えること請け合い。

 制度や法制の変更に伴って,業務内容が実際にどう変わるかも明らかにならないうちから要件定義をしたのだろうか。実際の仕事の流れではなく建前ベースで設計したようだ。(ユーザー)




 過去に様々なトラブルにあったが,現在取り組んでいることを記入します。現在中小製造業の「機能していないコンピュータ」を「機能するコンピュータ」にするという課題をもって作業をしています。なぜ機能しないのか,一つはユーザーの責任でコンピュータ神話を信じてしまったこと,一つはベンダーの責任で「売込」のみ(要件定義はまったく無し・・・要するにあれも出来ます,これも出来ます的に説明したのみ)で導入させた事。

 詳細にすると中小の製造業ではどのように2000年問題を解決するか分からないところに新システム導入を持ちかけた,しかしながら情報システムを構築しその情報を有効に使用し生産活動を行う検討はゼロであった。(ユーザー)




 公共主幹で開発し,民間企業が活用して,市民サービスを行うシステムであったが,完成前に主幹の担当者が異動したことと,民間企業の利用メリットが少なく,また,活用推進も十分で無かったために,費用換算すると10分の1の機能も利用されていないし,その事に関して,誰も問題視していない。

 公共機関の事業に対する無責任とプロジェクト管理推進責任の不明確。税金を使ってのプロジェクトで,完成した段階で終了となり,その後の活用チェックが行われていない。また,担当者移動に伴い,後任者は無責任であり,前任者の責任を追求できない(公務員が組織や上司仲間をかばう,問題化を恐れる)。世間には出てこない,このような税金の無駄使いは多いと思われる。(問題が露呈しない)(ベンダー)


 官公庁系のシステムに関するご意見が複数ありました。民間企業と異なり,費用対効果を厳しく追求する必要のなかった体質が,使えないコンピュータを生んでいるのでしょうか。

 もう一つの中堅・中小企業についてのご意見は,システムの専門家を社内に抱えることの難しい,これらの企業の現状を示したものです。2000年問題を契機に導入したシステムは,本格的なリース更改の時期に突入しています。使えないシステムをどうすべきかの決断が迫られています。