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 今日の「記者の眼」は,今週お付き合いいただいた「緊急連載:企業ネット実態調査」(提供:日経コミュニケーション)の最終回を兼ねて,アンケートの自由意見欄に寄せられたユーザーの生の声を紹介したい。これまで取り上げてきた通信サービスのランキングやIP電話の実態,新型WANの最新動向といったトレンドからは出てこない「現実」がそこにはあった。

 表1にユーザーから寄せられた主な意見をまとめた。「通信事業者に対する要望やご不満,ご経験を含め,通信サービスに関することを自由にご記入ください」という聞き方をしたせいか,不満の意見が目につく。

表1

同じ電話だから頼りたいのに

 この中で筆者が気になったのが,大阪府の不動産業の方から寄せられた「普段付き合っている通信事業者の担当者がIP電話に関する知識を持っていなかった」という点だ。同様な意見はいくつもあった。

 その不満の多くが,東西NTTに向けられていた。確かにやむを得ない面はある。ユーザーがいの一番に相談するのが,加入電話やISDNで普段から付き合っている両社だから。しかしそれだけではないだろう。例えば,東西NTTのIP電話サービス「法人向けIP電話」が中小規模に向けたものではないという事情が不満を生んでいないだろうか。ユーザーの不満が多いのは期待の裏返しといえる。東西NTTはそろそろ,企業ユーザーの幅広いニーズにあったIP電話サービスに取り組む時期ではないか。

固定電話の選択肢が“激増”

 もっとも業界の状況は「固定電話からIP電話へ」という分かりやすいものではなくなった。サービス競争が大方の予想を裏切り,IP電話ではなく固定電話で激化してきたのである。ユーザーによっては,必ずしも「IP電話」でなくてもコスト・ダウンできる選択肢が出てきた。

 ご存じの読者も多いだろうが,8月末に日本テレコム/ソフトバンク・グループが「おとくライン」(関連記事1関連記事2),KDDIが「メタルプラス」(関連記事)という新しい固定電話のサービスを発表。7月には通信ベンチャーの平成電電が一足先に同様のサービスとして「CHOKKA」を開始しているのである。

 料金は従来からある固定電話の常識を崩すものだ。具体的には,(1)加入権や7万2000円の施設設置負担金が不要,(2)基本料金が東西NTTよりも安い,(3)通話料金が市内や全国で一律料金――といった具合である。事業者間の競争はユーザーにプラスに働いているようだ。IP電話以外に選択肢が増えて,料金も安くなった。

 さらに大きな特徴は,ユーザーが普段から使っている既存のメタル回線をそのまま利用できる点だ。各社が東西NTTからメタル回線を借りて,ユーザーにサービスを提供する。IP電話のようにブロードバンド回線やWAN回線を導入する必要はない。

 つまりIP電話を導入したユーザーにとっては,「光ファイバの開通まで期間や手間がかかる」(大阪府・建設),「安価な最低速度保証の回線を提供してほしい」(広島県・製造)といった心配はある程度解消させられるだろう。

競争激化は吉か凶か

 KDDIがメタルプラスを発表したのは9月15日の昼過ぎだった。そしてその日の夜には日本テレコムがKDDIより基本料金を月額50円,通話料金を3分で0.1円安くすると発表している。さらに固定電話の総本山である東西NTTも“聖域”の電話基本料金の値下げを本格的に検討し始めている(関連記事)。

 ここで筆者は表1の「事業者の競争激化で,品質や信頼性低下が心配」(長崎県・金融・保険)というコメントを改めて紹介したい。通信業界の新たな再編問題まで飛び火し得る大きな発表続きで,筆者も原点を忘れかけていた。電話とは相手につながり話ができて当然のサービス。「品質や信頼性」が確保できなければ元も子もない。

 ソフトバンク・グループの日本テレコムは音質と安定性を重視し,現時点では既存の交換機を使うことにしたと説明している。KDDIはフルIP化したネットワークとIP電話サーバーで制御する。広帯域のIP網を作り音声パケットにQoS(サービス品質)を設定することで通話品質を保つという。KDDIはNTTの交換局に置く専用の機器を自社開発したという。

 両社ともソフトバンクBB(旧BBテクノロジー)がADSLサービスの立ち上げ時に演じたような混乱は許されない。特に企業向けのサービスでは致命的である。

増えた選択肢で選ぶ負荷も増大

 電話サービスの選択肢が増えた結果,逆にユーザーがサービスの選択に迷う可能性は高まる。例えば,KDDIはメタルプラスとNTT電話の違いをきちんと説明することが求められる。

 具体的には付加サービスがこれに当たる。日本テレコムのおとくラインはNTTと同じ交換機を使いNTTとのコンパチを売りにしているが,メタルプラスはユーザー・ニーズに応じて実装する付加サービスを絞るからだ。

 一方でKDDIの小野寺社長は15日の会見の席上「ボイスメールなど,IPならではのサービスを検討している」と自信満々に答えている。Webベースでの料金や着信履歴の閲覧,電話帳管理のサービス,豊富な転送といった「IP電話ならでは」のサービスを切り札として用意してるようだ。つまり従来の電話とは根本的に異なる「付加サービス」も出てくる。

 ますます複雑度を増す「電話」。通信事業者や販売業者は料金メニューや機能をきちんと説明することが求められる。筆者も記事をもって,ユーザーにサービスのメリット,デメリットをきちんと伝えていきたい。企業ネットワークの実態を浮き彫りにするには,ユーザーの方の回答と声が必要不可欠である。来年以降もご協力をいただければと思う。

(市嶋 洋平=日経コミュニケーション)