「最も多く使われている見積もり技法は類推法」「見積もりが原因で6割超の人がトラブルを経験」「3人に1人は見積もり技法の学習経験なし」――。IT Pro上で7月14日から10日間にわたって実施した「見積もりに関する意識・実態調査」によって,こんな実態が浮かび上がった。

 調査の目的は,(1)現在,利用している標準的な見積もり技法,(2)見積もりを巡る問題,(3)見積もり技法の修得方法――などを明らかにすることにあった。ITベンダーは今,ユーザー企業から透明性の高い見積もりの提示を求められていると同時に,プロジェクトの採算性を改善するために精度の高い見積もりを実践しなければならない(関連記事)。そうした状況の中で,ITエンジニアは見積もりに対してどのような意識を持ち,具体的にどんなアプローチで見積もりを実践しているのかを探った。

 今回の調査では,1150人からの有効回答を得た。回答していただいた皆さんに,この場を借りて感謝したい。なお,調査結果については日経ITプロフェッショナル9月号の特集「本当に使える見積もり技術」の中でも掲載している。ここでは,その主要部分をお伝えしよう。

大多数は「類推法」を利用

図1●標準的な見積もり技法の有無(有効回答数は1145)
 まず,ITエンジニアが標準的な見積もり技法の有効性をどう評価しているかを聞いたところ,全体の25.6%の回答者が,標準的な見積もり技法が「有効」と答え,57.9%の人が「期待はしているが,有効な基準・技法がない」と答えた(図1)。実際に利用しているかどうかは別にして,約8割の回答者が標準的な見積もり技法の必要性を認識して,期待を寄せている。

 では,実際にどんな見積もり技法が使われているのだろうか(図2)。最も多く使われている見積もり技法は,「類推法(概算法)」で,回答数は535人に上った。次いで,「ファンクション・ポイント(FP)法」(269人),「WBS(Work Breakdown Structure)」(239人)と続いた。採用されている見積もり技法はこの3つに集中している。

図2●現在使用している見積もり技法
複数回答,有効回答数は996(ITベンダーに勤務する人だけに聞いた)

 一方,「特に標準的な技法を利用していない」と答えた回答者も多く,225人に達した。およそ5人に1人の回答者は,標準的な見積もり技法を使わず,独自の方法でシステム費用を算出していることになる。

図3●過去実績のデータベース化への取り組み状況
複数回答,有効回答数は996(ITベンダーに勤務する人だけに聞いた)
 見積もりの精度を高めるためには,過去のプロジェクト実績のデータベース化も欠かせない。類似プロジェクトをベースとする類推法では,過去実績の蓄積・分析がなおさら重要になることは言うまでもない。では,実際に過去実績のデータベース化はどれぐらい行われているのだろうか(図3)。

 それによると,過去実績のデータベース化に取り組んでいる回答者は36.0%にとどまった。大半の回答者が過去の実績に基づく「類推法」を採用しているにもかかわらず,実際にはデータベース化はほとんどされていないという実態が明らかになった。このことから,「類推法」と言っても,その多くは属人的な「勘」や「経験」に頼った方法だと見ることができるだろう。