「気が付いたら電話代の半分以上を携帯電話の料金が占めていた」「携帯電話の料金が固定電話の2倍以上に達してしまった」(ある企業の総務担当者)――。日経コミュニケーション9月1日号の特集「知らぬ間に企業の通信費を肥大化,携帯電話のコストを下げろ!」において,会社が支給する携帯電話にスポットをあて,想像以上に通信費を肥大化させている実態を紹介した。

 考えてみよう。社員数1000人の会社で全員に携帯電話を支給する場合,1台当たりの月額利用料が8000円程度とすると,それだけで総額は月額800万円。年額では9600万円とほぼ1億円近い値に膨れあがる。最初に挙げた言葉のように,企業の担当者が悲鳴をあげるのも無理はない。

 貸与される社員にとっても,個人用の携帯電話に加えて2台の端末を持ち運ぶ負担が増える。中には,社内の内線用のPHS端末と常時3台持ち歩くケースもあるほどだ。携帯電話は,企業にとって業務を効率化する魅力的なツールである半面,実に悩ましい存在でもある。

モバ・センと公私分計ですべて1台にできないか?

 そんな企業における携帯電話の利用だが,ここに来て状況が大きく変わる可能性が出てきた。携帯電話をそのまま内線電話として利用できる「モバイル・セントレックス」が登場したからだ(参考記事)。携帯電話事業者の法人向けサービスの切り札として,NTTドコモ,KDDI,ボーダフォンの各社から出そろった。

 モバイル・セントレックスのメリットは数多い。社内の内線電話を携帯電話に一本化でき,固定の電話機に二重投資するムダを省ける。人事異動のたびに発生していたPBXの設定変更も不要になる。

 NTTドコモのモバイル・セントレックスの導入を決めた大阪ガスは(参考記事),コスト削減効果を年間約4億5000万円と試算する。この額には,WAN回線の変更やIP電話サービスによる効果も含まれるが,電話機,PBXなどの設備費,設定費だけを抜き出してみても年間約2億5000万円の削減を見込む。これは,従来の費用の半分に相当する。

 ここで一つのアイデアが出てくる。このモバイル・セントレックスに,1台の携帯電話を仕事用と個人用に分けられる「公私分計サービス」を組み合わせれば,企業における携帯電話の問題の,実にシンプルな解決策にならないだろうか。

 公私分計サービスでは,例えば番号を付加して通話した分は会社あての請求となり,そのまま通話した分は個人持ちとなる。貸与される社員にとっては,仕事用と個人用の端末を1台にできるメリットがあり,会社にとってみれば,個人の携帯電話に相乗りすることでコスト削減につながる。「月に支払う携帯電話の料金が半分になった」という企業もあるほどだ。

 モバイル・セントレックスと公私分計サービスの組み合わせとは,すなわち内線/外線,仕事/個人用の通話をすべて1台の携帯電話で担うことである。これらの施策によって,携帯電話のコストの肥大化を抑え,複数台の端末を持ち歩くのが手間という問題を解消できる。さらに,内線で電話をかけるときも相手が社内にいるかどうか気にする必要がなくなり,さらなる業務の効率化にもつながる。まさに一石三鳥の効果がある。

端末を忘れたり紛失した場合はどうする?

 とはいえ,現時点で課題も浮かび上がる。最も大きな課題は,携帯電話を忘れたり,紛失した場合だろう。すべてを1台で担うと,影響を及ぼす範囲も大きい。個人用の携帯電話を無くしてしまったときのことを思い出してほしい。電話番号を携帯電話のアドレス帳だけで管理している人も多いが,それが無くなるだけでも一大事だ。加えて,内線電話も利用できなくなるため,業務に多大な支障が出てしまう。

 モバイル・セントレックスの導入を決めた大阪ガスでは,既にこの点についても対応策を検討している。具体的には,パソコン上で動くソフトフォンを使って,緊急時の内線電話の機能を用意することを考えているという。とはいえ,呼び出しを受けるにはパソコンを常時起動しておく必要があるため,外出先での対応は難しそうだ。

 公私分計サービスにもまだまだ課題がある。導入企業の利用者の中には,結局,個人用の携帯電話も利用しているという声も聞く。個人用の電話番号は会社に知られたくない,自分の好きな端末を選びたい,といった欲求が生じるからだ。パーソナルな利用に慣れた携帯電話を,業務に利用する難しさがそこにある。1台の携帯電話の中で,仕事用と個人用に別々の電話番号を使えるようになれば,この問題は幾分解消するかもしれない。

 このように何点か問題はあるものの,内線/外線,仕事/個人用の通話を1台の携帯電話で担うことは,企業の選択肢として確実にニーズがあると筆者は考える。登場したばかりのモバイル・セントレックスだが,このような利用形態は,近い将来必ず現れるのではないだろうか。

(堀越 功=日経コミュニケーション)