圏外では端末は“聞き役”,周囲にしゃべらない

 結論からいうと,「電波の届かない圏外では,端末から電波を発信することはない」(NTTドコモ,KDDI)という。具体的には,端末は自分が圏外に出たことを認識すると,FMやAMラジオのように電波を受けるだけのモードに入る。そして,圏内に入って電波が届いた時点で,端末が自分の位置を登録する電波を出す。その後,メールの送受信や通話が可能となる。

 つまり,名古屋の市営地下鉄のホームや車内は圏外で,端末は聞き役に徹して電波を出さない状態となる。名古屋市交通局もこの点に着目している。もっとも端末メーカーや製造時期によっては,圏外でも電波を出すような機種があるかもしれない。今後,名古屋の取り組みが広がった場合には,この点もきちんと検証すべきだろう。

 ちなみに,筆者は2年前にトンネル内の地下鉄車内とエレベーターの内部で携帯電話端末の電磁波強度を測定した。

 あくまでも参考として結果をお伝えすると,地下鉄の車内は電磁波の強度が地上と変わらなかった。ところが,エレベータ内では違う傾向だった。通常は0.数V/mの値であるが,6台の携帯電話を通話で利用していると約10V/m。6台が同時に発信中の時は約30V/mという値になった。つまりこの結果だけを見れば,(1)電波が弱くても届いてしまう,(2)密閉された狭い空間,(3)人体や座席など電磁波を吸収する物体がない,といった状況でもっとも強い影響が出ると考えられる。

阪急は先頭と最後尾に電源オフ車両

 筆者はさらに各事業者の対応を調べてみた。そうしたところ阪急電鉄が「先頭と最後尾の車両では電源オフ」で運用をしていることが分かった(編成によっては多少異なる,同社のページ)。昨年の7月から正式に始めた。同社によると「もともとすべての車両のすべての座席を優先席として設定しているため,統一マナーに合わせることができなかった」(同社)という注)

:2年前の記者の眼の執筆時点では,東京急行電鉄が偶数と奇数の車両で「電源オフ」と「マナーモード」を設定していた。しかし,昨年9月に関東圏の統一マナー導入時にそれに合わせた。渋谷と神奈川県の中央林間を結ぶ田園都市線であれば地下鉄半蔵門線や東武線とも相互乗り入れをしている。編成車両によって先頭が奇数の場合と偶数の場合があるなど運用の煩雑さもあったという。

 筆者は毎日の通勤にJR埼京線,池袋で乗り換えて東京メトロの有楽町線を利用しているが,優先席に座って携帯電話を利用している人を時々見かける。若者だけでなく,年配の人も結構気にせず使っている。

 そもそも「優先席付近では携帯電話の電源をお切りいただき,その他の場所ではマナーモードに設定のうえ通話はご遠慮ください」という統一マナーの優先席の「付近」というのもあいまいだ。ペース・メーカーを装着している人が,優先席もしくはその付近を確保できない場合もあるだろう。

 やはり筆者は優先席だけでなく,号車を限定して設定すべきだと思う。地上を走る鉄道は名古屋の地下鉄のように電波の遮断は不可能だからだ。さらにここまで携帯電話が普及しているのだから,義務やリスクをもっと明確にして,逆に音声通話の利用解禁も含めて選択の余地を持たせられないものだろうか。あまりにも複雑だと浸透しないので,「電源オフ」「メール可」「通話可」の3パターンが現実的だろう(もちろん「通話可」はせいぜい1~2両など少なめにすべきだろう)。

 新幹線などの喫煙/禁煙車両やラッシュ時の通勤路線の女性専用車両は号車で明確に分けている。阪急電鉄のように,これと同じ考え方で携帯電話でも実現できないだろうか。携帯電話を利用するユーザーはタバコを吸う人口よりも多いはず。ペース・メーカーを装着している人だけでなく,何らかの理由で携帯電話の利用や電波の影響を気にする方は歓迎だと思うのだが。

 携帯電話や無線LANなど電波を使う機器は非常に便利だ。使い始めたらやめらないものばかりだ。次々と先進機能が搭載されていく。しかし鉄道や携帯電話の事業者はここで立ち止まり,名古屋や阪急電鉄での取り組みを検証してみてはどうだろうか。当然ながら,「優先席付近では電源をオフにする」「着信音はオフにする」など利用者側の意識改革も必要だ。

(市嶋 洋平=日経コミュニケーション)