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 今回の記者の眼は,7月22日に公開した「気遣いは動かないコンピュータを減らすのか」について,皆さんからのご意見を紹介しながら,「動かないコンピュータ」にまつわる問題について考えていきたいと思います。

 前回の記事では,最近の記者の経験から「気遣い」というものがシステム開発プロジェクトを有効に進めるものなのかどうか,という問題を提起しました。この問題提起に対して,今回も非常に重要なご意見を多数いただきました。ご意見の総数は300件を超えました。改めてご意見を書き込んでいただいた皆さんにお礼を申し上げます。

「気遣いは有用」が回答の6割を超す

図1
図1●当事者が気遣いのある対応をしているプロジェクトは,「動かないコンピュータ」なりやすいと思いますか。それともなりにくいとお考えですか
回答総数は302件。ユーザーの立場(302件中78件),ベンダーの立場(302件中202件)での差はあまりなかった
 まずはじめに,みなさんからの回答の集計結果をお伝えします(図1)。気遣いのある対応をしているプロジェクトは動かないコンピュータには「なりにくい」,「どちらかといえばなりにくい」という回答の合計が,60.2%で過半数となりました。ユーザー企業かベンダーかという属性による回答の差はあまりありませんでした。

 どうして気遣いが有効かについては,その理由について触れたご意見を多数いただいています。代表的なものをいくつかご紹介します。



気遣いは好影響を与えると思います。相手を気遣って対応をしないとお互いの信頼ができない。よく,プロジェクトを実際に進めて,終了したときに「戦友的な関係」を構築できていないと,次のビジネスなど営業的な面でも影響がでると思います。「戦友」ということばが意味しているように一緒に戦ったという印象がお互いに芽生えること。当然,お客さんと良い意味での戦い(議論)ができる状態でなければ,そういう感情は芽生えないと思います。私の仕事のポリシーは「街で会ってもちゃんと挨拶の出来る関係を構築する」ことです。お互いの立場を理解し一緒に戦うためにも気遣いは必須だと思います。
(「ベンダー側でプロジェクトの方針決定にかかわる,または影響を与える立場」の方)



気遣いとは社会生活のなかで欠くことのできない要素であり,その要素が欠落したプロジェクトが成功するとは思えない。記事内での気遣いによる失敗例は,気遣いではなく「言うべき事を言わなかった」というだけ。言うべき事を言いつつ,相手が辛いときであればモチベーションが下がらない様にフォローするのが気遣い。「気遣い」がないプロジェクトが成功するわけがない!
(「ベンダー側でプロジェクトの方針決定にかかわる,または影響を与える立場」の方)



ユーザー,ベンダー共に相手は人間同士であるので,お互い気遣いは必要であると感じる。契約内容を取り上げ,全く持って杓子定規にプロジェクトを進めていたのでは遣りにくい。ただし,気遣いすぎても良くないと感じる。一定の距離をおいているが,密な関系となる必要があると思う。
(「ユーザー側でプロジェクトの方針決定にかかわる,または影響を与える立場」の方)



気遣いが無ければ失敗すると思います。ユーザー,ベンダーの各トップ間の交渉事,契約事についてはある程度ドライな割り切りが入ると思いますが,ユーザー,ベンダー含めて現場はお互いの気遣いで成り立っていると思います。各工程立ち上げの際には,WBSを作成し詳細なアクティビティを作成しますが,検討項目や作業内容に漏れが発生するのが常です。

その漏れはサブチーム間,ユーザーとベンダー間のいわゆる「右中間ポテンヒット」になりやすいのです。そのポテンヒットを拾うための工数は当然ドライに協議し円滑に進める必要がありますが,そのポテンヒットを予見し,危ない!と「騒ぐ」のは気遣いがあり,プロジェクトに前向きなメンバーにしかできないことです。

ポテンヒットが積み重なって,誰も声を出せずに沈んで行くプロジェクトをいくつか見ていますが,誰もがきちんと気遣えるプロジェクトは現場的に失敗はしません。 私はベンダー側リーダーの立場ですが,お客様タスクがうまく進んでいない時には心を鬼にしてかなり厳しいことを言います。当然原因を聞きだして対策指示も出します。逆に,休日作業などでベンダ側が対応しているときには差し入れなどでお客様側から気遣っていただいたときはうれしいものです。現場の面から言うとお互いに成功に向けて関与し続けるという気遣いが成功の秘訣だと思います。

(「ベンダー側でプロジェクトの方針決定にかかわる,または影響を与える立場」の方)

 いずれのご意見も,プロジェクト・メンバー間における信頼関係が,プロジェクトを進める上で重要だという点をご指摘されたものでしょう。気遣いによって,メンバー同士のコミュニケーションが深まることで信頼関係が生まれると言ってもいいかもしれません。

 完成したソフトはデジタルなものですが,システムを開発するのは人間です。ユーザー,ベンダー,さらには協力会社と呼ばれるベンダーの下請け会社,ユーザー企業のシステム子会社のように,純粋なベンダーともいいにくい企業が参加することも少なくありません。大規模開発になれば,プロジェクトへの参加者は1000人単位になります。こういったプロジェクトでやるべきことや注意すべきことを事前に把握することは不可能です。問題をいち早く察知するために,気遣いが有効だという面も指摘されています。

 最近,プロジェクトマネジメントの専門家のご意見をお伺いする機会がありましたが,その専門家の方も「プロジェクトを成功させるためマネジャーに必要な能力は,メンバー間のコミュニケーションをどうするかといったヒューマン・スキルに関する部分が8割程度を占めるのではないか」といった趣旨のことをお話しでした。気遣いの重要性について触れたご意見でしょう。

気遣いと馴れ合い,無責任は異なる

 記者が気遣いの実例として,前回の記事で挙げたのは,正式な契約の前に開発作業をスタートさせたベンダーの担当者の話と,いよいよシステムの完成が遅れることが避けられない状況になるまで,作業が順調に進んでいないことを互いにきちんと知らせていなかったユーザー,ベンダーの事例の二つでした。

 これら二つのプロジェクトについては,本当の気遣いとは言えないというご指摘が多くありました。