IEEE802.11aやIEEE802.11gといった無線LAN規格に準拠した機器の最大伝送速度は54Mビット/秒。でも,普段から無線LANを利用しているユーザーは,そんな速度はまず出ないと実感している。「無線LANの実際のスループットは最大伝送速度の半分以下」というのが半ば常識だ。

 ここに来て,そうした状況を変えるべく,新しい技術が登場してきた。最新の無線LAN製品は,スループットを改善するためのさまざまな技術を採用している。代表的な方式は「Super G」「AfterBurner」「PRISM Nitro」の3つである。どれも,無線LANチップを開発しているメーカーが独自に自社チップに搭載している。

 こうした新技術を使った無線LAN製品のカタログやパッケージには,スループットが「最大40Mビット/秒」とか「最大66Mビット/秒」と表記されていたりする。本当に,それほど実効速度が向上するのだろうか。

従来のスループットは最大でも31M

 実測値を見る前に,IEEE802.11aや11gの理論的な実効速度を計算してみよう。

 無線LANでは,フレーム単位でデータを送受信する。前のフレームと次のフレームの間には間隔を空けなければならない。このフレーム間のギャップが実効速度を落とす要因となる。また,1個のフレームを送るたびに確認応答であるACKフレームを待つ必要もある。

 加えて,フレームのヘッダーやフッターもオーバーヘッドになる。こうしたオーバーヘッドを考慮すると,1個のフレームの中に入れられる1500バイトのデータを送るときに必要な時間は,389.5マイクロ秒。したがって,スループットは約31Mビット/秒(1500バイト×8ビット÷389.5マイクロ秒)になる。

速度向上が実感できることはまれ

 では,実際はどうか。

 サーバーからFTPで50MバイトのJPEGファイルをダウンロードする時間を計測し,そこから実効スループットを求めた。SuperGを採用した製品としてコレガの「CG-WLAP54AG-P」,AfterBunerはバッファローの「WLA-G54/P」,PRISM Nitroはプラネックスコミュニケーションズの「GW-AP54G/-US54G」を使い,それぞれで高速化機能をオンにしたときと,オフにしたときを比べてみた(グラフ1)。

 ほかにも,こうした高速技術を採用した製品はあるが,高速化機能によって向上するスループットの幅は,どの製品でも変わらないはずだ。つまり,高速化機能オフ時に比べてスループットがどれだけ向上したかをみれば,その高速化技術の効果がはっきり分かる。

グラフ1●3方式の無線LAN機器での実効速度 50MバイトのJPEGファイルをFTPでダウンロードした時間から算出。

 この結果,最も速度向上幅が大きかったSuperG採用のコレガ製品でも,20.7Mビット/秒が21.9Mビット/秒に向上しただけ。PRISM Nitroにいたっては0.6Mビット/秒しか速くならなかった。

結局はデータ圧縮による効果が大きい

 この結果をもう少し詳しく考察すると,高速化技法の違いが,結果に大きく影響していることが分かった。

 実は,AfterBurnerとPRISM Nitroはバースト転送という技術だけを使っている。バースト転送とは,無線LANのフレームを送信する間隔をなるべく短くして,ロスを小さくする技術。単位時間に送信できるフレーム数を増やすことで,スループット向上を目指す。この技術は2005年第1四半期に標準化予定のIEEE802.11eの一部を先取りしたものだ。

 SuperGは,このバースト転送に加えて,データ圧縮とファスト・フレームという技術も採用している。前者は送信側でデータを圧縮し,無線区間はその圧縮された状態でやりとりする。そして,受信側で伸張して元に戻す。ユーザーから見ればスループット改善になる。

 後者のファスト・フレームは,1個ずつ送っていたデータを複数まとめて送る技術である。この技術も,単位時間当たりのデータ数が増やせるので,スループット向上につながる。

 どちらの効果が大きいかを調べるために,データ圧縮がよく効く真っ白なBMPファイル(サイズは50Mバイト)をSuperG搭載製品でダウンロードする時間を計測してみた。すると,なんと32.5Mビット/秒もの速度をたたき出した。オフの時に比べて10Mビット/秒以上もスループットが向上したのである。

 前の計測ではすでに圧縮済みのJPEGファイルだったので,真っ白なBMPファイルの時の方がスループット向上が大きかったということは,ファスト・フレームよりもデータ圧縮の方が効果が大きいと言える。

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 ここでは,最新の無線LAN機器の測定結果をさわりだけ紹介した。日経NETWORK最新号(2004年9月号)の特集『実測! 無線LANはどこまで速くなったか――最新スループット向上策とその効果』では,どれだけ高速化技法の効果があるかをさらに詳しく検証した。

(三輪 芳久=日経NETWORK)