「エンドユーザー・コンピューティング? そんなもの死語死語(笑)」。日経パソコンはこの秋,「パソコン活用大賞」というイベントを企画している。パソコンを業務に活用することでコスト削減,効率化,プロジェクト成功といった成果を上げているユーザーや職場を広く募り,手本となるようなケースを表彰しようという内容だ。

 日経パソコンは企業内を含めた個人ユーザーを主な対象読者としている。その性格上,大規模案件ではなく,部課単位,ユーザーから半径数メートルの取り組みを募りたい。そう,「エンドユーザー・コンピューティング」の推進者を表彰したい。賞の概要を決めるとき,記者は安易にこう考えた。と同時に,いやな予感もした。「いまどき,そんな職場あるの?」

確かにユーザーの自由度は減っているけれど・・・

 編集部では事例の募集を始めると同時に,参考となるような具体的なケースも探し始めた。その取材中,投げかけられたのが冒頭のセリフだ。どこの誰ではない。知恵を借りに行ったメーカー,ベンダのあらゆる専門家,事情通,キーパーソンから同義の言葉が返ってきた。おまけに,最後に口にするセリフまで同じ。遠い眼をして「昔は良かったですねぇ」。

 FD,CDドライブはもちろん,USB端子もつぶしてあり,ログイン権限は制限ユーザー,ソフトも組み込み不可,コントロール・パネルは非表示,2ちゃんねるにはつながらず,ノート・パソコン,AirH"は持ち込み禁止。これが今どきのスタンダード,もしくは企業内クライアントのあるべき姿で,危機意識の高い会社のエンドユーザーは,パソコンを“パーソナル”・コンピュータとして昔のように自由に使える状況ではないらしい。

 それはそうだ。個人情報の漏洩,ウイルス感染による業務の停滞,ラインセンス不明ソフトの存在,いずれも会社の存亡にもかかわる重大事だ。昔とは違うのだ。社内システムの運用に責を負う人たちがよく口にする「セキュリティ・ポリシーを守らせるには限界がある」という主張もその通りだと思う。本人は「活用」のつもりでも端から見れば「乱用」。そんなケースも多い。

 しかし,取材を進めていくと,いたのだ。がんばってるエンドユーザーが。昔とは違い,システム部門と二人三脚だったり,真のエンドユーザーではなく支援部門だったりするのだが,自分たちの手で,時には業務の枠を踏み越えてまで,パソコンを使って自分たちの業務の効率化に取り組んでいる職場が見つかったのだ(詳細はこちらのページで)。

「業務外なのになんでそこまでするの?」

 「業務外なのになんでそこまでするの?」 正直,彼らを動かすその原動力がよくわからなかった。疑問をぶつけてみると,あるユーザーーは黙考の後,「愛社精神ってことになるんですかねぇ」と言う。浪花節と言われるかもしれないが,とてもうれしくなった。

 このような職場やパソコン活用方法をどう評価するかは立場や考え方によって異なるだろう。たまたま上司の理解があり,たまたま事故がなく,たまたま成果があがっただけかもしれない。それでも,日経パソコンとしては,このようなパソコン活用事例を応援したい。

 記者が日経パソコンで取材を始めたのは1990年。当時と比べ,パソコンを取り巻く状況は全く変わってしまった。インターネットをはじめとする道具立ては格段に充実した。一方で,ちょっとしたことをやるにも,社内でパソコンを使うとなるとクリアすべきハードルがとても高くなってしまっている。ただ,「仕事にうまいことパソコンを使ってやりたい」というエンドユーザーの思いはそれほど変わってないと信じたい。

 自分たちの業務に,パソコンやアプリケーション,インターネットなどを活用して,効率化やコスト削減などの第三者にわかるような一定の成果を上げているユーザーまたは職場。皆さんや皆さんの周りに,多くのビジネス・パーソンの手本となる,このようなパソコン活用事例はないだろうか。

 是非,パソコン活用大賞にご応募いただきたい。審査の結果は,10月末にIT Proサイトでもお知らせしようと思っている。

(本間 健司=日経パソコン)