Webサイトは,物販により利益を直接上げたり,企業の営業チャネルの一つになるなど,企業活動に欠かせない存在になっている。実際,Webサイト担当者の多くは「Webサイトなしでの営業(販売)活動は考えられない」と口をそろえる。こうなると,経営層も投じた費用に対し,Webサイトがどれだけ売り上げに貢献しているのかをきちんと把握したくなるはず。

 そういった思いから日経システム構築8月号で「システム投資の死角」という特集を執筆した。ユーザー企業がどのようにWebサイトの投資対効果を測っているのかを取材し,投資対効果を測る上で必要な「指標の設定方法」や「より効果を高めるための問題点のあぶり出し方」などをまとめた記事である。

 この取材を進めているうち,少し気になるキーワードを様々な取材先で伺った。それは,「ユーザーがSEを見る目はより厳しくなっている」ということである。ここでは,このキーワードについて書かせていただきたい(Webサイトの投資対効果の測り方については,上記の特集を参照いただければ幸いである)。

 取材に対応いただいたのは,主にユーザー企業のマーケティングや営業といった立場の方々である。これらWebサイト担当者がSE(自社の情報システム部門の場合もある)に対して何を感じているか,また,問題を解決するためにどんな試みを始めているか,をお伝えしたい。

「コスト意識だけは高いがビジネスの話ができない」

 まずは,システムの「効果」に対するユーザーとSEとの間の意識のずれである。例えば,あるマンション・デベロッパーのWebサイト担当者は「情報システム部門は,『そのシステムならこれだけの工数とコストがかかる』という話はできる。しかし,こちらが求めている効果を,そのシステムでどれだけ得られるのか,といった話ができない」と語ってくれた。

 「それはユーザーの仕事でしょう」というご意見もあるかもしれない。だが,サイトを担当するマーケティングや営業担当者は,システムの作り手に対して,コストだけでなくそのシステムがもたらす効果についてもユーザーと一緒になって考えてくれることを求めているのだ。

 ビジネスとシステムが直結すると,システム変更などの対応にも迅速さが求められてくる。利用者が社員ではなく顧客になるからだ。問題点を早くつぶさなければ,顧客にそっぽを向かれかねない。このため,Webシステムに対する“スピード感”は社内システムのそれよりも厳しくなる。にもかかわらず「情報システム部門にWebサイトの修正や機能追加をお願いしても,対応が遅い。そのため,Webサイトの運営には社外のホスティング・サービスを利用し,柔軟に改善できるようにしなければならない」(ある金融会社のWebサイト担当者)と嘆く。

 SEに対し,よりユーザー視点を求める声もあった。「SEは効率を求めがち。しかし,Webサイトを訪れるエンドユーザーのニーズを満足させるには,必ずしもシステム的に効率的なことがよいとは限らない」(あるメーカーのWebサイト担当者)。この会社では,ときにユーザーが求める“システム的には非効率”な機能を作ってもらうために,日ごろからSEと戦っていると言う。

ユーザーとSEの間でよりよい関係を作るために

 このようなユーザーとSEとの関係を見直してよりよいものにしていくために,2つの側面から取り組んでいる例を紹介しよう。一つはSEの意識改革,もう一つはWebサイトの運営体制の改革である。

 社内のSEの意識を変えようとしている企業の例がJTBだ。同社では,SEに対し,システム化する金額はいくらかはもちろん,売り上げがどのくらいになるのかなどを含めた「システム投資チェックリスト」を作成することを義務付けている。「こういった文書を作成するためには,システムに加え,営業などビジネスに関する知識も求められる」(事業創造部 システムインテグレーション室 室長補佐 田島義久氏)。

 Webサイトに対してダウン・タイムやレスポンス・タイムなどのサービス・レベルを社内的に設定し,その達成度合いがSEの給与に反映されるというネット専業企業もある。こうなると,システムの改善スピードを高める努力をしないわけにはいかない。

 情報システム部門の体制改革でユーザーの厳しい要求に応えているのがINAXだ。同社では,Webサイトの改善スピードを早めるWebサイト担当者の要求に応えるため,情報システム部門で人を動かしやすいような組織作りを実施している。

 一歩進めて,Webサイトを運営する部門に,SEも配置している企業がリコーや三菱電機である。「営業などの担当者が企画した要件をSEが単に実装する,という『バケツ・リレー方式』では,各自が自分のことだけしか考えなくなる。これでは良いWebサイトは作れない」(リコー 販売事業本部 e-ビジネスセンター ネットリコー推進室 室長 花井厚氏)。Webサイト担当者(営業/マーケティング)とSEが近くにいることで,問題意識を共有できるし,SEはWebサイト担当者が望む効果を身近に感じられるというわけである。

 顧客数や売り上げの増減がはっきり見えやすいWebサイトが,企業にとって欠かせない存在になるにつれ,ユーザーがSEを見る目はますます厳しくなってきた。裏を返せば,それだけSEへの期待が高まっているわけだ。SEにとってはチャンスでもある。

(吉田 晃=日経システム構築)