イントラネットやインターネットのWebサイトのコンテンツ更新に手間がかかる,運用コストがかさむ,デザインやレイアウトがばらばらになってしまい統一感が出ない,といった悩みを抱える管理者は少なくない。こういった問題を解決するツールとしてコンテンツ管理システム(CMS,Contents Management System)がある。だが,高価なことから,これまではCMSを導入するのは大量のコンテンツをビジネスとして提供する企業に限られていた。

 しかし,ここへきて状況が変わりつつある。手軽に利用できるオープンソースのCMSの機能が向上し,企業での採用が広がっている。

 東京スター銀行は,社内の情報共有システムに,J2EEをベースにしたオープンソースのCMSOpenCmsを採用,9月に稼働させる予定だ。「商用のCMSに比べればサポートされていない機能もあるが,当行の用途であれば十分」と,東京スター銀行 情報システム本部システム企画部部長 岩渕重人氏は語る。OpenCmsは英語版しかなかったため同行で日本語化したが,それでも商用製品や自社開発に比べ低いコストで導入できた。日本語化の成果は,コミュニティにフィードバックする予定だ。

 中央三井キャピタルは,同社の公式ホームページに,XOOPS関連記事)と呼ばれるオープンソースのコンテンツ管理システムを採用している。

 また阪急電鉄は,利用者の中から選ばれた「バーチャル駅長」が阪急沿線の情報を発信する「バーチャル駅長室」をZope上に構築している。ZopeはPythonと呼ばれるスクリプト言語で開発されたオープンソースのCMS機能を持つアプリケーション・サーバーである。

コンテンツの登録や編集,サイトのデザイン統一が容易に

 CMSとは,Web上のコンテンツを登録・表示するシステムだ。WWWブラウザのフォームなどのGUIからコンテンツのテキストや写真といった素材だけを投入すれば,コンテンツをデータベースに記録して管理し,あらかじめ登録してあるヘッダー部やフッター部,左右のサイドバー部分と組み合わせて整形し,Webページとして表示する。これにより,コンテンツの作成や編集が誰でも短時間で行えるようになる。Webデザイナがいなくとも,ユーザー企業の担当者だけでホームページを更新できる。

 全体のデザインも統一されるとともに,デザインを一斉に変更することも容易になる。またコンテンツは更新日時,ジャンル,キーワードなどの属性とともに記録され,更新日時順,ジャンル別,キーワード別などの一覧が自動的に作成される。

 実際にはほかの様々な機能と組み合わされており,どこまでをCMSとするかは人によって異なる。Movable Type(関連記事)などのBlog構築ソフトもCMSの一種とする場合もある。またコンテンツ管理機能のほかにコミュニティ機能やパーソナライズ機能を備え,ポータル・サイト構築ツールとして認知されているソフトウエアもある。Zopeは,CMSとしてではなくアプリケーション・サーバーとして紹介されることも多く,より高機能なコンテンツ管理機能を提供するZope上のアプリケーションPloneも開発されている。

オープンソースでもWYSIWYGエディタなど高度な機能

 なぜ企業でのオープンソースCMS採用が進んでいるのだろうか。記者は,以下の3つの理由があると考えている。

 まず,Linuxをはじめとするオープンソース・ソフトウエアが認知され,企業側に抵抗がなくなってきたこと。2つめの理由は,オープンソースCMS自体の機能が大幅に向上してきたことだ。

 例えばOpenCMSは,WWWブラウザ上にJavaScriptで作られたWYSIWYGタイプのHTMLエディタを備える(OpenCMS公式サイトの紹介ページ)。あたかもワープロのように,WWWブラウザのボタンをクリックするだけでフォントを変更したり表や画像を挿入したりすることが可能だ。

 Mambo Open Source関連記事)と呼ばれるオープンソースCMSも同様なWWWブラウザ上のWISWIGエディタを備える。OpenCMSがJ2EE上で稼働するのに対し,MamboはPHPとMySQL上で稼働する。Mamboオープンソースじゃぱんが日本語化を行っている。

 また,コンテンツ管理以外にも様々な機能を備えているものも多い。例えばXOOPSは,掲示板やBlog,アンケート,アバター機能のモジュールを提供しており,ポータル・サイト構築ツールとして紹介されることも多い。

 そして,3つめの最も大きな理由は,ソースコードが公開されているため,自由にカスタマイズや機能の追加が可能なことだ。そのため,システム・インテグレータがシステム構築の素材として利用している。例えばワイズノットは,画像素材ダウンロード・サイト「がちょん共和国」を,XOOPSを利用して構築した。画像表示機能はXOOPSgalleryと呼ぶモジュールを修正して実現している。

 またタイムインターメディアは,ZopeをベースにしたCMS「幕の内」を開発し,小学館のこども向けポータルサイト「こどもぽるた」を開発している。

 データベースやOSといった基本ソフトウエアでは,オープンソースとはいっても,C言語で書かれたソース・コードを解析し改良することは容易ではない。しかし,CMSはPHPなどのスクリプト言語やJava,SQLで書かれたアプリケーションだ。システム・インテグレータが慣れ親しんだ言語であり,修正や機能追加も容易だ。ソース・コードが公開されているというオープンソース本来のメリットを享受しやすいソフトウエアだと言えるだろう。

 なお,ここで紹介した以外にもオープンソースのCMSは多数存在する。OSCOMというオープンソースCMSの団体もあり,そのサイトでは100以上のプロジェクトを紹介している。まだ日本であまり知られていないソフトウエアや,日本語化されていないものも多数あり,オープンソースCMSの選択肢はこれから更に増えていきそうだ。

(高橋 信頼=IT Pro)