オープンソース・ソフトウエア(OSS)を開発している技術者のうち,40.8%は「会社は自分がOSSの開発にかかわっていることを知らない」。そして29.4%は「自分がOSSの開発にかかわっていることを会社に認めてほしい」と望んでいる――。

 経済産業省の委託で三菱総合研究所が実施,この春に結果を公開した「オープンソース/フリーソフトウェア開発者オンライン調査」の調査結果がとても気にかかっている。

「会社は自分がOSSを開発していることを知らない」が4割

 この調査は,日本国内のオープンソース・ソフトウエアを開発している技術者の実態を調べるために,インターネット上で行ったアンケートである。オープンソース・ソフトウエアへのかかわり方や,年齢,収入などを尋ねており,547人が回答している。

 「在籍する組織がオープンソース・ソフトウエア開発を認知しているか」という設問の結果を見てみよう(図1。複数回答)。「会社(もしくは在籍中の学校)は,(回答者が)オープンソース・ソフトウエア(の開発)にかかわっていることを知っている」という回答は34.7%。これに対して「会社(学校)はオープンソース・ソフトウエアにかかわっていることを知らない」との回答が40.8%。「会社は,自分がオープンソース・ソフトの開発にかかわっていることを知らない」という開発者の方が多いのだ。

図1
図1●在籍する組織がオープンソース・ソフトウエア開発を認知しているか
「オープンソース/フリーソフトウェア開発者オンライン調査」の調査結果

 「OS/FS開発・コミュニティのために働き,それに応じて対価をもらっている」という人も7.2%,「会社(学校)がOS/FSにかかわる仕事に任命した」という人も11.1%いるが,「会社(学校)はOS/FSにかかわっていてほしくないと考えている」という回答も5.0%ある。

 「在籍する組織に対するオープンソース・ソフトウエア開発の認知についての希望」を聞いた設問(複数回答)では,最も多かった回答が「オープンソース・ソフトウエアの開発にかかわっていることを会社に認めてほしい」の29.4%だった(図2)。「オープンソース・ソフトウエアの開発・コミュニティのために働き,それに応じて対価を認めてほしい」が24.2%,「オープンソース・ソフトウエアにかかわる仕事に任命してほしい」が10.8%。これに対して,「会社(学校)はOS/FSにかかわっていることを知らないままでいてほしい」という回答は11.7%に留まっている。

図2
図2●在籍する組織に対するオープンソース・ソフトウエア開発の認知についての希望
「オープンソース/フリーソフトウェア開発者オンライン調査」の調査結果

欧米企業は社員のオープンソース・ソフト開発をアピール

 実は,この「オープンソース/フリーソフトウエア開発者オンライン調査」は,欧米で行われた「Free/Libre and Open Source Software: Survey and Study」と呼ばれるアンケート調査の日本版という位置づけになっており,いくつか同様の設問がある。その結果を比べてみよう。

 米Stanford大学が行った米国での調査でも「オープンソース・ソフトウエア開発の認知」について尋ねており,その結果は,「会社(学校)はOS/FSにかかわっていることを知っている」という回答が59.2%,「会社(学校)がOS/FSにかかわる仕事に任命した」という人も23.0%いる(図3)。いずれも日本の調査よりも高い数字だ。逆に,「会社(もしくは在籍中の学校)はオープンソース・ソフトウエアにかかわっていることを知らない」という答えは23.6%と少ない。

図3
図3●在籍する組織がオープンソース・ソフトウエア開発を認知しているか(米国での調査)
「The Free/Libre/Open Source Software Survey for 2003」の調査結果

 どちらがよいかは別として,米国のオープンソース開発者の方が,所属先に活動を認められているようだ。

 実際,欧米の企業のオープンソースに関連する事業を行っている責任者の話を聞くと,自社がいかにオープンソース・コミュニティに貢献しているか,を“自慢”されることが多い。例えば,米Hewlett-Packard Vice President Martin Fink氏は「毎週,社員のオープンソース・プロジェクトへの参加を2~3件認可している。HPの社員は既に100以上のプロジェクトに参加しており,プロジェクトの中核となっている社員も多数いる」と話す。

 確かにLinuxカーネルのソース・コードを調べると,開発者のメール・アドレスとしてibm.comやhp.comといったドメインが大量に出てくる。当然これらの開発者は,勤務先公認で,Linuxの開発を行っている。と言うより,業務としてLinuxを開発している技術者が大量にいる。co.jpももちろんあるが,ibm.comやhp.comに比べればいかにも少ない。

 コミュニティへの貢献を強調するのはFree Rider(ただ乗り)と批判されないためもあるが,オープンソース・コミュニティに対する影響力を誇示する狙いもあるだろう。コミュニティへの影響力が高ければ,例えば,自社の必要とする機能が正式にサポートされる可能性が高くなる。

社員のOSSへの取り組みが,目に見える利益をもたらすことも

 もちろん,日本の経営者の中にも「オープンソース・ソフトウエアへの取り組みは企業の利益になる」と考える経営者もいる。例えばインテグレータであるグッディの代表利取締役社長の前田青也氏だ。同社では,社員の山本博之氏が業務の一環としてメール・クライアント・ソフトウエアSylpheedを開発し,会社のサーバーで公開している(関連記事)。

 前田氏によれば,これは自社の技術レベルを示す格好の“宣伝”になるという。前田氏は「Sylpheedなどが広く使われるようになったため,顧客のほうから声をかけられるようになった。しかも,技術力の要求される単価の高い仕事が来る」という。人材採用の費用も削減できたという。「能力の高い人が自ら入社したいと言ってきてくれる」(前田氏)。また,人材教育面でも「オープンソース・ソフトウエアを開発することで外部に開かれた状態となり,切磋琢磨される」という。いわば学会活動に似た効果がある。テーマが実用的なぶん,より現場で役立つ技術が磨かれると言えるかもしれない。

 日本での企業も,こういった社員へのオープンソース・ソフトウエアへの参加の直接的な利益を評価してもよいのではないだろうか。言葉は悪いかもしれないが,経営のために“利用”するのである。冒頭で示したように,開発者の側も,これだけ多くの人が「オープンソース・ソフトウエアの開発にかかわっていることを会社に認めてほしい」と望んでいる。オープンソース・ソフトウエア開発の認知とその活用は,企業と社員の双方にメリットがあるはずだ。

(高橋 信頼=IT Pro)