「少し乱暴な表現だが,ものを買うことを“がまんできない消費者”が増えている」――。携帯電話向けWebサイトを対象とする広告会社のディーツー コミュニケーションズ(D2C)の藤田明久社長は,こう指摘する。D2Cは,広告会社最大手の電通と携帯電話サービス最大手のNTTドコモの合弁会社。携帯電話の主要ユーザーである10代~40代の消費動向に詳しい。

 いつでもどこでも何かが欲しくなったらすぐ手に入れたい。そんな購買衝動を抑えられない人が多くなった。彼らはちょっとしたきっかけを与えるだけで,商品を買ってくれる傾向が強い。反対に,彼らをいらいらと待たせてしまうような店はそっぽを向かれ,販売機会はめぐってこない。

 藤田社長は,がまんできない消費者が増えた理由をこう分析する。「コンビニの数が増えた。それに,近所の店が閉まっている時も,インターネット上の店は開いている。何かを買いたいと思えばいつでも買える環境が整ってきた。消費者がその環境に慣れてきたのだ」

「TSUTAYA」のCCCが好業績

 「TSUTAYA店舗は『10分商圏』を意識して設置してきた。つまり,CCC(カルチュア・コンビニエンス・クラブ)グループはかなり以前から,リアルタイムで顧客のニーズに応えられるように,いつでもどこでも利用可能にする取り組みをしている」(ツタヤ オンラインの服部達也社長)

 がまんできない消費者への対応が進んでいる企業の代表例は,実店舗を多数持つ上に,ショッピング・サイトの認知度や売り上げが高いところ。「TSUTAYA」のフランチャイズ展開で有名なCCCのような企業だ。TSUTAYAと言うと「映画や音楽のレンタル」というイメージがすぐ頭に浮かぶが,実は音楽CDの売上高でも全国トップ。消費者の「リアルタイム・ニーズ」に応えようと努力してきた成果の1つだ。

 CCCの2004年3月期の連結決算は増収増益。売上高は16%増の1423億円,経常利益は6%増の53億円だった。好成績の要因として,フランチャイズ事業とインターネット関連事業の収益が拡大した点を挙げている。

 国内でいち早くショッピング・サイトを立ち上げ,順調に売り上げを伸ばす紀伊國屋書店も,リアルタイム・ニーズに敏感だ。小澤利彦・店売総本部ネットビジネス部部長は,「消費者の欲求に1日24時間いつでも応えられることは,重要な企業戦略だ」と言い切る。

35%の消費者が“がまんできない”

 リアルタイム・ニーズに敏感な企業が元気なのは,買い物の手間や時間を省けることに付加価値を見いだす消費者が増えているためだ。ここに興味深い調査データがある。野村総合研究所(NRI)が2003年7月に約1万人の消費者に対して実施したアンケートの結果だ。

 このアンケートでは,消費スタイルを4タイプに分類。(1)購入時に安さより利便性を重視する「利便性消費」,(2)製品にこだわりはなく,安ければいい「安さ納得消費」,(3)気に入った付加価値には高価でも対価を払う「プレミアム消費」,(4)多くの情報を収集して,お気に入りのものをできるだけ安く買う「徹底探索消費」――である。

 実はこの4タイプのパーセンテージは,(1)から順に35%,34%,18%,13%となる。つまり,利便性消費がトップなのだ。NRIの日戸浩之サービス事業コンサルティング二部上席コンサルタントは,この結果を次のように分析する。