Linuxは,キーワードとしては一般にもよく知られており,サーバーOSとしてはシステム構築の現場でも広く利用されている。ただし,デスクトップOSとしてはほとんど使われていないといってよいだろう。記者の周りでも,Fedora CoreやDebianのユーザーは数えるほどしかいない。なぜなのか。

 Windows用のアプリケーション・ソフトウエアがほとんど動作しない,インクジェット・プリンタの機能を100%引き出せず印刷環境が弱いなど,Linux自体の「引き」の弱さもあるだろう。だが,最大の弱点は,来るものを拒むインストールにあるのではないだろうか。

パーティション操作が鬼門

 Windows用のフリー・ソフトは,ダウンロード後,アイコンを2,3回クリックするだけでインストールできる。気軽に試して,良いものであれば簡単に乗り換えられるため,自然にユーザーが集まってくる。

 LinuxでもメディアラボのLinux MLD 7のようにWindows上からインストールが可能な製品はあるが,大半はそうではない。まっさらのディスクにインストールするのはさほど難しくはないが,フリー・ソフトのように試してみたいのだから,当然Windowsは残さなくてはならない。

 すると,どうしてもハード・ディスク上に新しい領域を作成するパーティション操作が必要になる。これが落とし穴の連続で,なかなか気軽にはチャレンジできない。Windows内のデータ・ファイルのバックアップ,Windows用起動フロッピの作成,MBR(Master Boot Record)のバックアップと面倒な作業が目白押しだ。やっとパーティション操作に入っても,これ自体危険性が高く,失敗すると当然Windowsは起動しなくなる。

 さらに問題なのが,このパーティション操作自体をどうやって実行するかということだ。Windows用のフリー・ソフトとして利用できるものは見当たらない。もちろんLinux用のパーティション操作ソフトはあるのだが,パーティション操作の段階ではまだLinuxをインストールしていないために利用するすべがない。

「1CD Linux」を使う

 日経Linuxが6月22日に発売したムック「WindowsからLinuxへ乗り換えよう」では,CD-ROMからブートする「1CD Linux」を利用することでこの問題を切り抜けた。1CD Linuxとは,1枚のCDにLinuxカーネルやライブラリ,各種アプリケーションが収められており,CDブートで起動して使用できるLinux OSを指す。

 ムックの記事中では,1CD Linuxを単なるツールとして扱っている。だが,1CD LinuxからLinuxの世界に入ればインストール作業はそもそも不要だ。ムックの付録DVD-ROMには,独立行政法人 産業技術総合研究所が精力的に日本語版を投入しているKNOPPIX を収録したが,これはパーティション操作ソフト(QtParted)も備えている。

 昔はFIPS などをフロッピ・ディスクに入れて利用するのが一般的だったが,GUIが利用でき,WindowsのNTFSを操作できるQtPartedを使うことで,Windowsユーザーにも受け入れられやすくなったに違いない。

 1CD Linuxでは,ブート後,即座にWebブラウザが使え,Microsoft Officeと互換性のあるOpenOffice.orgなどのアプリケーション・ソフトウエアがそのまま利用できる。実はデスクトップOSとしてかなり使えるのだ。

 インストール前後の面倒な作業を解説したムックの内容が無駄になってしまうのかもしれないが,まずは1CD Linuxを試して,ある程度本格的に使いたくなったら,ハード・ディスクにインストールするタイプのLinuxディストリビューションに移るというのが,LinuxをデスクトップOSとして使いこなすための一番の近道なのかもしれない。

(畑 陽一郎=日経Linux)