テレビにあらゆる情報を集めて,家庭における情報機器の中核にする――。

 NHK放送技術研究所は,日ごろの研究成果を展示する技術展「技研公開2004」を,5月27~30日に開催した。今年のキーワードは,「総合情報端末」だ。NHKが推し進める総合情報端末構想のコンセプトと,その関連技術が多数紹介された。

 総合情報端末は,デジタル放送とインターネットの両方を伝送路として利用する新型のテレビ受信機である。同受信機には大容量の蓄積機能も搭載されており,両方の伝送路から送られる映像コンテンツを蓄積することができる。受信機に通信と放送・蓄積の3機能を持たせて,パソコンにおされ気味の情報機器の分野でテレビの復権を目指すという構想だ。

ホームラン・シーンだけを見る

 NHKは総合情報端末構想を,「サーバー型放送受信機」で実現しようとしている。サーバー型放送受信機の規格は現在,NHKをはじめとする放送事業者と通信事業者,メーカー各社が共同で作成しており,放送・通信・蓄積の3機能を盛り込む予定である。2006年には同受信機向けのサービスを開始できる環境を整える。

 サービスを提供する事業者は,地上デジタル放送やBSデジタル放送,インターネットを通じて配信する映像コンテンツに,「メタデータ」と呼ぶ情報を付加する。メタデータは,映像コンテンツの各シーンを特定するためのものである。サーバー型放送受信機に蓄積された番組から,視聴者が指定したシーンだけを自動的に検索して再生したり,ダイジェスト映像を自動生成して再生することなどが可能になる。プロ野球中継であれば,ホームラン・シーンだけを見たり,試合全体を短くまとめた映像を見ることができる。

 技研公開では,事業者によるメタデータの制作を支援する技術として,番組の映像や音声からどのようなシーンかを自動的に認識するシステムが展示された。また,サーバー型放送用コンテンツの課金や保護を行うためのCAS(限定受信システム)技術なども展示した。インターネットとデジタル放送で配信するそれぞれの有料コンテンツを,一元的に管理できるのが特徴である。

放送とネットの両方で配信する体制へ

 NHKの取り組みは技術開発にとどまらない。サービス面でもデジタル放送に加えて,インターネット経由で家庭のテレビ受像機にコンテンツを配信し始めた。第一弾として今年4月からデジタル・テレビを対象に,静止画や文字データを配信している。7月には,ブロードバンド回線を使ってテレビ向けのVOD(ビデオ・オン・デマンド)サービスを提供しているKDDIやソフトバンク・グループのBBケーブルなどに,番組の供給を開始する。NHKは総合情報端末構想の実現に向けて,デジタル放送とインターネットの両方でコンテンツを配信する体制作りに着手したようである。

 インターネット配信などの新サービスについて,NHKはこれまでにのように受信料で提供コストを賄うのではなく,ユーザーに別途コスト負担を求めることも含めて,今後,経費負担のあり方について議論を詰めていくとみられる。総合情報端末構想は,こうしたNHKの拡大路線を推し進めるための戦略的構想といえる。

(吉野 次郎=日経ニューメディア)