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 「基礎が肝心」ということは,IT業界ならずとも一般に通用する常識の1つである。しかし,だれもがその大切さを知っているにもかかわらず,実践することは存外難しいのかもしれない。

 よく起こる問題は,「基礎知識ぐらいなら何となく知っているつもりだったけど,実はよく理解できていなかった」ということだろう。例えば,次のWindowsパソコンのTCP/IP設定画面を見てもらいたい。

 ここに並んだ項目は,どれもパソコンを企業ネットワークに接続するとき不可欠なものばかりである。正しく設定しないと,基本的にはネットワークにうまくつながらないと考えてもらいたい(つながってしまうこともあるが)。Windowsパソコンを使っているIT技術者ならこの設定画面を開いた経験があるはずだし,システム管理者なら日常的に見ている画面だろう。

 さて,ここでクエスチョン。認知度の高い「IPアドレス」はさておき,あなたは「サブネット・マスク」や「デフォルト・ゲートウエイ」の意味をうまく説明できるだろうか?

 ネットワークに詳しい方々には甚だ失礼な質問に違いない。なにしろ,これらの設定項目はネットワークの基本中の基本なのだから。

 しかし,何となく知っているようでいて,うまく答えられない方も多いのではないかと予想している。かくいう筆者自身も,少し前まで知識があいまいだった。例えばサブネット・マスクには,「255.255.255.0」とか「255.255.255.192」といった値をセットすればよいことは経験的に知っているだろう。ただし,その値の意味を正しく説明できるかどうかという点では,自信が揺らぐのではなかろうか。

 正解の説明はこの記事の趣旨ではないため割愛するが,少なからず自信が揺らいだ方は先を読み進めていただきたい。

トラブル解決は基礎知識+理論的なアプローチ

 パソコンのOSはブラックボックス化が進んでいて,「設定が面倒なこと」「設定ミスが多い項目」などはシステム側の自動化や工夫により隠蔽(いんぺい)されることが多い。TCP/IPの基本設定でも,Windowsの自動アドレス設定機能APIPA(オートマチック・プライベートIPアドレシング)や,DHCP(ダイナミック・ホスト・コンフィギュレーション・プロトコル)などの仕組みにより,何もしなくてもネットワークにつながる場合がある。

 純粋にアプリケーション・ソフトだけを利用したいユーザーにとって,面倒なネットワーク設定に時間を費やすのは無駄だし,その設定内容の意味まで知る必要もない。しかし,パソコンやシステムを開発・運用管理する側の技術者が,OSが隠蔽しようとする部分(基礎知識の多くはここにある)を知る必要がないかといえば,もちろん違う。

 その最も大きな根拠は,何かトラブルが起こったとき,基礎知識がないと解決できないことが多いからである。

 よく「トラブルシューティングは経験がものをいう」と言われるが,その道のプロ自身は少し違った見方をする。サブネット・マスクやデフォルト・ゲートウエイといった基礎的な知識の積み重ねをベースに,なぜそのトラブルが起こったのかを理論的に推理していくことが重要だという。つまり,「固有のトラブル解決例をいくつ知っているか」より,「基礎知識+理論的アプローチを身に付けているかどうか」でトラブル解決力に差が出るというわけだ。前者も大切な点ではあるが,後者のほうが未知の問題に対して強いことは明らかだろう。

 ここで本題に戻る。行数を費やした割には極めて単純な結論だが,やはり「基礎が肝心」なのだ。そして,その基礎知識に対する理解があいまいでないか,再点検してみてはどうだろうか。例えば,OSの基本的な設定画面に出てくる項目ぐらいはしっかりと理解しておきたい。特に,トラブルに接する機会が多い技術者にはとても大切なことである。

(渡辺 享靖=日経Windowsプロ)