「Itanium 2」「Opteron」「Xeon EM64T」など64ビットCPUの広がりで,PCサーバーが面白くなってきた。ハード/ソフト・メーカーが対応製品を新たに続々と発表しており,開発を表明するメーカーも多い。この4月以降の主な動きだけを見ても,「富士通がItanium 2搭載サーバー投入」「日本HPがOpteron搭載サーバー投入」「日本BEAシステムズがItanium 2対応WebLogic Server発売」「日本オラクルがItanium 2対応Oracle 10g発売」・・・といった具合だ。

 UNIXの稼働プラットフォームだったRISCチップは90年代から64ビット化が進んでいたのに対し,PCサーバー上で稼働するWindows/Linuxもいよいよ32ビットの制約から解放される。これは動きがありそうだと思い,日経システム構築の最新号で64ビットPCサーバーの動向を追った。

 32ビットCPU上にアプリケーションを作ると,使えるメモリーが4Gバイトまでという制約があった。64ビットCPUでは,それが事実上無制限(理屈上は18エクサ・バイト)になる。

 大量のトランザクションを同時に処理するEC(Electronic Commerce)システムや,大容量のデータを分析するBI(Business Intelligence)システムは,32ビットでは限界がある。そうした課題に直面したWindows/Linuxユーザーは,これまでならRISCベースのUNIXへの移行を検討するしかなかった。今は,PCサーバーをそのまま使い続けるという選択肢が現実味を帯びている。また,HP-UXのようにItanium 2上で稼働するUNIXもあるため,同じ64ビットでRISCからPCサーバーへ移行する選択肢もありうる。

 32ビットから64ビットへの移行を果たしてメリットを享受しているユーザー事例を取材すると「なるほど世界が違うのだな」と思わせられる。有名な富士写真フイルムのデータウエア・ハウスでは,32ビット版Windowsで使っていたころはメモリーが足りず不安定だった。64ビット版に入れ替えた後は,アプリケーションにメモリーを潤沢に割り当て,安定稼働を実現しているという(関連記事)。

 しかしその一方で,この変化を「どう受け止めればいいのか」という迷いを持つユーザーもいる。それが気になった。

「32ビットでも不満はない」

 大手製造業の情報システム部門担当者が,興味深い指摘をしてくれた。「ここ数年で,システムの性能がとても高くなってきたと感じる。普通の要件なら,その性能を限界まで使い切ることはない」。つまり,業務でのシステムの使い方は以前とあまり変わっていない。一方で,システムの性能向上は,右肩上がりで続いている。そのギャップが広がってきたため,これ以上の性能向上は,オーバースペックになるだけというのである。

 確かに,富士写真フイルムのような事例はむしろ少数派で,ユーザー事例を取材していていても,会計や販売管理など一般的な業務システムでは,単独で数十Gバイトのメモリーを必要とするような要件自体,あまり多いようには見えない。インテル自身も,「(32ビットのシステムをリプレースするような用途では)有効な使い方をどう提案すればよいか」と悩んでいる面もある。

 たとえ32ビットCPUでは限界があっても,ちょっとした工夫でカバーできることも多い。データベースのメモリーが不足気味なら,アプリケーションを分割するなどしてチューニングを施せば使えるケースは多い。製品についても,Windows系のServerはAWE(Address Windowing Extensions)という32ビットの制約を超えるメモリー拡張機能をソフトウエア上に備えている。

 Windows/Linuxでは,32ビットの時代が長く続いたために,たいていの業務要件には応えられるシステム開発のノウハウが多くたまっているのだ。そんな中で64ビット化と言われても「今さら・・・」という感想が出てくるのは,当然だろう。

 64ビットCPUには,1クロック当たりの演算桁数が2倍になるためアプリケーションによっては処理性能向上が期待できるというメリットもある。ただし,業務アプリケーションでは浮動小数点計算のように桁数を必要とする局面はあまりない。その恩恵を享受できるのは,とりあえず科学技術計算や高速描画に限られると見て良いだろう。

面白い使い方に期待

 この分野は,むしろ技術が先行的に導入され,面白い使い方が後から出てくるのではないだろうか。スケジュール通りであれば,放っておいても今年中にはPCサーバーの主力CPUであるXeonには64ビット拡張機能が搭載される。と言うことは,Itanium 2やOpteronに加え,恐らく来年以降に続々出荷されるXeon搭載PCサーバーのほとんどが64ビット化されている。

 特に,これまでは32ビットの制約を当たり前に受け入れていたWindows/Linuxユーザーが64ビットの利点に気付いたとき,これまでのWindows/Linuxの常識とは少し違う作り方が出てくるかもしれない。こう思ったのは,既に今でもいろいろな人がいろいろなことを言っているからだ。

 「別々のサーバーで運用していた複数のアプリケーションを1サーバーに統合し,ソフトウエア・ライセンスや運用コストを削減する」とか「メモリー上に全データベースを展開する新しいアーキテクチャのデータベース“イン・メモリーDBMS”が本格的に使えるようになる」とか,64ビット化による“改善案”は,いろいろ聞かれる。

 システム開発の現場にいるSEやシステム企画,あるいはプログラマといった人たちの発想や挑戦に期待したい。もしユニークなユーザー事例が出てきたら,是非取材してみたい。冒頭に「PCサーバーが面白くなってきた」と書いたのは,そんな期待を込めている。

(尾崎 憲和=日経システム構築)