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「悩む」のではなく「考える」ための処方箋

2004/05/10

 「ITエンジニアにとって極めて重要な“考える力”が不足してきている」──

 日経ITプロフェッショナル5月号で「思考の技術」と題した特集記事を書くため,第一線で活躍しているITエンジニア十数人に話を聞く機会があった。そのときに,少なからぬ方から冒頭のような指摘を受けた。

 他人が作った提案資料をそっくり流用する。ITの知識に欠けるユーザーからの要求をそのまま要件定義書に反映させる。計画通りプロジェクトが進んでいないのに,どうしてよいか分からず手を打たない。そんなITエンジニアが散見されるのだという。

 取材した30代のあるITエンジニアは自戒を込めて,自身の経験をこう打ち明けてくれた。「予算を立てるときに前例をそのまま踏襲しようとして,上司に厳しく叱られたことがある。上司の指摘はもっともだった。予算の根拠を,自分自身でしっかりと理解できていなかったからだ」

 前例をそのまま踏襲するのでは,満足できる結果を出せなくなっている。ユーザー企業,IT企業ともにビジネス環境の変化が激しくなっているのに加えて,新しいITの登場やシステムそのものの複雑化も進んでいるからだ。従来のやり方が通用しないケースが増えたことで,ITエンジニアは様々な面で一から自分でやり方を考え直す必要性に迫られている。このことが,考える力が不足している背景にある。

「考える」と「悩む」は違う

 ビジネスの変化やシステムの複雑化に対処するには,以前に増して自分自身で考え抜く姿勢が求められる。ただし考え抜く姿勢だけで,考える力の不足を補えるわけではない。

 日ごろITエンジニアを指導する機会が多いあるコンサルタントは,こう指摘する。「本人は一所懸命に考えているつもりでも,悩むばかりでただ時間を浪費しているケースが少なくない」

 「考える」と「悩む」は別ものである。問題に対する解決策を導き出すシーンで言うと,両者の最も大きな差は,最初に問題を明確化するかどうかだ。

 「悩む」ケースでは,問題があいまいなまま,いきなり解決策にたどり着こうとすることが多い。例えばユーザー企業から「最近,商品在庫のだぶつきが目立ってきた」という相談を受けたとしよう。この問題に対して,需要予測システムや自動補充発注システムといった解決策をいくつか思いつくかもしれない。しかし,どんな解決策がユーザー企業にとって最適かという答えを出すことは無理だ。

 「だぶついている」とはどういう状態か。だぶついているのはどの商品か。どうして「目立っている」と感じるのか。ユーザー企業の誰にとって問題なのか──。こうしたことがあいまいなままで,解決策が適切だという根拠を示せるわけがない。

図●「考える力」を身に付けた人とそうでない人の思考過程の違い(図をクリックして拡大表示)
 「考える」ケースでは,最初に問題をできる限り明確にする。そのうえで必要な情報を収集し,整理するといった具合に,手順を踏んで解決策を導き出す([拡大表示])。もちろん,これで常に適切な解決策にたどり着けるとは限らない。しかし的はずれな解決策を提示したり,どうして良いか分からずに悩み続けるといったことは避けられる。

考える手順を身に付ける

 「考える」ために,手順を踏むことの重要性を分かってもらえたと思う。考える手順には,汎用的に使えるものがある。これが,ご存じの「思考法」だ。代表的な思考法としては,「ブレーンストーミング」や「KJ法」,「ロジックツリー」などがある。そうした思考法を身に付けることが,自分の考える力を高める助けになる。

 思考法については,書籍が多数出版されているほか,セミナーも数多く実施されている。思考法を身に付けるには,それらを利用してほしい。日経ITプロフェッショナルの読者の方は,5月号の特集「思考の技術」をご覧いただきたい。ここでは数ある思考法を整理・分類するとともに,思考法を身に付ける際の注意点について述べる。

 数多く提唱されている思考法のうち,基本となるものは「発想法」と「構造化手法」の2つに分けられる。

 まず発想法は「クリエイティブ・シンキング」とも呼ばれ,アイデアをどんどん出すことで考えの幅を広げることを目的としている。「ブレーンストーミング」や「KJ法」,「マンダラート」などが,発想法として広く知られている。

 構造化手法は,「ロジカル・シンキング」といったほうが馴染みがあるかも知れない。たくさんの情報やアイデアを,相互の関係を基に論理的に分析・整理する手法だ。全体と部分の関係を把握したり,背景にある法則や重要なアイデアを見つける助けになる。「ロジックツリー」のほか,「マトリックス(表)」などいくつかの方法が提唱されている。

 そして実践手法として,この2つを組み合わせて問題の原因と解決策を考える「問題解決の手順」がある。先に示した考える手順は,問題解決手法を極めて単純化したものだ。マッキンゼー・アンド・カンパニーの「PSA(Problem Solving Approach)」をはじめとして,大手コンサルティング会社などがそれぞれ独自の問題解決手法を提唱している。

考える力の根本は知識と経験

 これら提唱されている思考法の多くは身に付ける価値が高いが,そのまま役に立つわけではない。考えるという行為は,極めて自由度が高い。当然だが,その人に合った考える方法は異なるし,考える対象によっても方法を変えるべきである。そのため思考法を杓子定規に使うのではなく,アレンジすることが極めて重要だ。日々の仕事で一般的な思考法を実践しながら,自分なりの方法を編み出すぐらいの気構えが必要である。

 ここまで思考法について述べてきたが,考える力を高めるために重要なことはそれだけでない。繰り返しになるが,考え抜く姿勢が大前提である。さらに,演繹(えんえき)・帰納,集合論の基礎といった「基本的な論理学の知識」も不可欠だ。「きみの話は筋が通っていない」とよく言われる人は,思考法の前にここから取り組むべきだろう。

 また考える力の根本は,その人が積み重ねてきた知識と経験であることも,しっかりと認識しておく必要がある。日々の仕事に真剣に取り組んで,どん欲に知識と経験を身に付ける。その知識や経験を最大限に活用するため,思考法という「道具」を使う。これが,考える力を伸ばす最良の方法である。

(中山 秀夫=日経ITプロフェッショナル)

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