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記者の眼

ユーザー・エクスペリエンスって時期尚早?

仙石誠 2004/04/21 ITpro

 ただでさえ略語や新語が多く,用語が分かりにくいITの世界にあって,筆者が最もとらえどころがないと思っている言葉の一つが「ユーザー・エクスペリエンス(User Experience)」だ。「エクスペリエンス」単体で用いられることも少なくない。例えば,「製品を通じて,新たなエクスペリエンスを提供する」とか,「今後はユーザー・エクスペリエンスを向上させることに重点を置く」とか,「モノではない。エクスペリエンスを売るのだ」といった具合に使われている。

 ユーザー・エクスペリエンスは,新たな,使いやすいユーザー・インタフェースを説明する際に使われることが多い。例えば米Microsoft社は.NET構想の発表以来,ことあるごとにエクスペリエンスをアピールしてきた。Windows XPのXPも,Experienceから取ってきたものだ。また米Apple Computer社はMicrosoft以前から,ユーザー・エクスペリエンスをうたっている。

 何となく言わんとしているところは分かる。でも,実際にどういうエクスペリエンスが提供されるのか,自分にとってどんなエクスペリエンスになるのかについて,どうにも具体的なイメージがわかない。だから,ユーザー・エクスペリエンスには特別な意味があるわけではなく,どちらかというと技術用語というよりもマーケティングやプロモーションにおける流行語みたいなものかと思っていた。

 でも,単なるセールストークではない何かがありそうな雰囲気はある。そこで日経バイトの2004年5月号で,ユーザー・エクスペリエンスの“ナゾ”に迫るべく,ユーザー・インタフェースの最新動向を特集した。この特集の取材を通じて,ようやくユーザー・エクスペリエンスをどうとらえるべきかが見えてきた。ユーザー・エクスペリエンスは,一言では説明できない,様々な要素がたくさん詰まった言葉である。それが,具体的にイメージするのが難しいことにつながっているのである。

ユーザー・エクスペリエンス=ユーザー体験?

 ユーザー・エクスペリエンスは,ユーザビリティの高い製品開発を進めていく上で目指すべきゴールを示した言葉である。認知心理学者のDonald A. Normanが,Apple ComputerでGUI開発に携わっていた当時,提唱した。

 ユーザー・エクスペリエンスとは何かを簡単に説明するなら,「使い勝手や使いやすさはもちろん,製品によってもたらされる成果や使用感,使用中や使用後にユーザーの中に起こった感情なども含めた,ユーザーの体験すべて」ということになる。

 体験すべてというからには,その製品を買おうと情報を収集したり,販売店に行って実物を眺めたり,触ったり,買おうかどうしようか悩んでみたり,といったことも含まれる。ビジネスの現場であれば,仕事が早く終わってありがたい,というような“体験”も考えられるだろう。でも,そう説明されても,やはり分かったような分からないようなもやもやとした感じは依然として残る。

 Normanは,いきなりユーザー・エクスペリエンスが重要だと言ったわけではない。そこに至るまでの過程がある。この過程を踏まえないと,ユーザー・エクスペリエンスの本当の意味はなかなか見えて来ない。だからセールス用語っぽい印象につながってしまうのだ。

第一歩はユーザーが何を考えているかを知ること

 ユーザー・エクスペリエンスを理解する上で重要な概念が,User Centered Designである。日本語に直すと,ユーザー中心設計である。ユーザー中心設計は,Normanが1960年代半ばに発表した概念だ。

 開発者主導で製品が作られ,その結果,その製品がユーザーにとっては使いにくいものになってしまったという例は少なくない。こうした事態を避けるためには,ユーザーにとってどういう製品が望ましいのかを検証しながら開発を進めるべきだ。このような考え方と,そのための手法を示したのがユーザー中心設計である。

 ユーザー中心設計のポイントとなるのは,(1)開発プロセスを適切なフェーズに切り分ける,(2)各フェーズでユーザーによる評価を基にした検証を行う,(3)開発に携わるメンバー全員がすべてのプロセスに立ち会う,(4)誰が開発に携わっても同じ質の作業を進められるよう手法化する,の4点である。この中で,ユーザー・エクスペリエンスと密接に関連するのは(1)および(2)である。

 (1)の適切なフェーズに切り分けるというのは,例えば製品企画と仕様策定,設計・デザイン,製品評価といったように,開発の進捗に応じてプロセスを区切るということだ。ここで,最後の製品評価の段階だけでなく,各段階でユーザーの評価を得て,修正が必要ならばそれぞれのフェーズの中で完結させる。これが(2)のユーザーによる評価を基にした検証である。最終段階で大きな修正を加えるのは難しい。しかし,段階を適切に区切っていれば,後戻りできるタイミングを逃さず,必要な修正を加えられる。

 ユーザー・インタフェースが使いやすいかどうかは,それを使うユーザーしか判断できない。であれば,ユーザー・インタフェースのデザインに至るプロセスでも,ユーザーがどう評価するかを検証するべきである。これがユーザー中心設計の肝である。もちろん,評価やその分析には,ユーザー自身も気付いていないような「製品に対する気持ちや印象」を引き出さなければならない。そのために,認知心理学をベースとした評価手法や分析方法を使うというのも,ユーザー中心設計のポイントだ。

 この考え方と手法を延長すると,ユーザー・エクスペリエンスに行き着く。製品の購入前や購入するとき,製品を使っているとき,使い終わったとき。製品にかかわるあらゆるシチュエーションで,ユーザーが製品に対して何を考え,どう思っているか,そしてどう行動するか。これらを開発段階から評価と検証を重ねながらデザインする。そうすれば,ユーザーに有用と思ってもらえるユーザー・エクスペリエンスを開発者が意図的に提供できるはずである。

 しかし,ここでこうも思うのだ。「それでもユーザー・エクスペリエンスって,ただの宣伝文句じゃないの?」と。その根拠は,感情や気持ちを評価し,分析する手法が存在していないことだ。ユーザビリティの専門家によれば,かろうじて満足度を定量的に把握する手法が考案されている程度だという。

 現状うたわれているユーザー・エクスペリエンスでは,「うれしい」「楽しい」といった気持ちが占める比重はかなり高い。でも,それらの感情を適切に評価・分析する手法がないのに,どうやってそれらをデザインすることができるのだろう? もしかして,開発者が「こうなったらうれしいと感じてくれるだろうな」と考えてデザインする? それって,「こう作ったら便利だろうな?」で出来上がった,ボタンてんこ盛りのリモコンや,目的のアイコンがどこにあるか分からないユーザー・インタフェースと同じ作り方ではないのだろうか?

 はっきり言って,現時点では,開発者が意図した通りのユーザー・エクスペリエンスを実現できるところまでは来ていない。だから,今うたわれているユーザー・エクスペリエンスは,未だ目指すべきゴールであり,到達したゴールではない。

 気になるのは,ユーザー・エクスペリエンスをうたっている製品の中に,「バッド・エクスペリエンス」になりかねないように思えるものがあること。これでは,目指すべきゴールであるはずの「ユーザー・エクスペリエンス」に悪いイメージがつきかねない。そんな口だけのユーザー・エクスペリエンスなら,言わない方がマシだ。

 ユーザー・エクスペリエンスを掲げるなら,いかにそれが「グッド・エクスペリエンス」であるかを明確に示す検証データも一緒に公開してみるといったことも考えてみてはどうだろう。メーカーには胸を張って,自信を持って「自社製品を通じてユーザー・エクスペリエンスを提供する」とアピールしてほしいのだ。進むべき方向は間違っていないのだから。

(仙石 誠=日経バイト)

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