コンシューマ向けのサイトなど,“作りながら決めたい”システムでは,最初にすべての要件をRFPに盛り込むことが難しい。しかし,それ以外でRFPをまとめきれないユーザーは,組織体制に問題があることが多い。

 ユーザーが手製のRFPを用意するケースでは,その役割は情報システム部門が担うのが一般的だ。RFPの作成には,業務部門などのエンドユーザーと経営者の意見をうまく吸い上げることが欠かせない。しかし情報システム部門は,これらステークホルダーに比べ,相対的に立場が弱い。そのため,両者の“板ばさみ”に陥りがちだ。「こんな機能もほしい」とエンドユーザーの要望は膨らむばかり。その一方で,「コストを削れ」と経営者の圧力は容赦ない。そんな苦しい状況下で,SIベンダーに「早く決めてくれ」と詰め寄られれば,心が折れても不思議ではない。

コミュニケーションの土台を見直す

 SIベンダーとしては当然の仕事を求めた一言。しかし,度重なる人減らしなどがたたり,情報システム部門の弱体化は予想以上に深刻だ。そのような情報システム部門にとっては,ごく当たり前の一言が,「心を折る一言」に変わる。

 この例を見ても分かるように,同じ台詞でも,事情によって相手に与えるインパクトは異なる。“心を折る”作用が生まれる背景として,ユーザーとSIベンダーのコミュニケーション量が不足しているという事情は大きい。コミュニケーションが足りないために,“ささいな一言”でも疑心暗鬼になり,キツイ言葉と勘違いしやすくなるからだ。

 プロジェクトにおけるコミュニケーションの重要性は昔から変わらない。ただし,「プロジェクトが大型化して参加者全員の顔が見えづらい」「短期開発を強いられてコミュニケーションの土台を築く時間が割けない」といった阻害要因が,昨今のシステム構築ではより顕著になってきたと感じる。

 “心が折れる”と称した羽生氏は,急発進な最近のプロジェクトに対して,「メンバー間でコミュニケーションが確立し,プロジェクトが温まるまでに,数週間は必要」と警鐘を鳴らす。コミュニケーション不足の弊害を感じているなら,プロジェクトが冷え切る前に,その建て直しを急ぐべきだろう。

(森山 徹=日経システム構築)