“根拠は無関係”では取りつく島がない。なぜ,こんな理不尽な一言がユーザーの口から出るのか。SIベンダーを経て,現在は東京カンテイでシステムを構築する瀧内誠氏(システム部 部長代理)は,「SIベンダーに対して“お金”を分配しているうちに,ユーザーは自分がエラくなった気になるのではないか」と指摘する。開発を請け負うSIベンダーより自分たちの方が立場は上という意識は,システムの変更に対して「仕様変更ではなくバグ修正」と決めてかかる姿勢にも見て取れる。

 本来,ユーザーとSIベンダーの関係は対等であるべきだ。ここで筆者が言う「対等」は,一緒に仕事をする上で,“相手の立場や状況を踏まえて発言する”というレベルだ。しかし,このレベルをクリアしていないために,プロジェクトが難航するケースは少なくない。ユーザーには「心を折る一言」を封じ,SIベンダーのやる気を引き出す行動を求めたい。SIベンダーのパフォーマンスが上がることは,ユーザーにとってもメリットは大きいはずだ。

ユーザーをねじ伏せにかかる

 一方のSIベンダーも,ユーザーの心を折る言葉を隠し持つ。また,SIベンダーの高飛車な態度がユーザーの反発を招くことも少なくない。

 あるSIベンダーは,「ユーザーとの打ち合わせに大量の資料を持ち込み,分量で圧倒して説き伏せようとした」。しかし,“力で押さえこもう”という思惑をユーザーはすぐに見透かした。その結果,「話についてこれなくなったユーザーが,資料のアラ探しに走った。ユーザーを身構えさせてしまったことで,プロジェクトは停滞した」と反省する。

 あきらかにSIベンダーの姿勢に問題がある。しかしこのような場合,打ち合わせのやり方を変えるなど,関係修復に向けた対策はある。根が深いのは,意図せずにユーザーのやる気を削いでいるケースだ。例えば,“力不足”のユーザーは,SIベンダーの「早く決めてくれ」の一言に,意気消沈してしまう。

 アウトソーシングを推し進めても,システムの所有者は基本的にはユーザーだ。当然,プロジェクトの頭から尻尾まで,ユーザーが決めるべきことは山ほどある。しかし,ユーザーが自分で決められない場面は増えている。例えば,「要求定義書(RFP)がまとめきれない」という問題。今回の取材でも,社外のコンサルタントに協力を仰ぎRFPを作成するユーザーは少なからずいた。日本情報システム・ユーザー協会がこの2月に発表した「企業IT動向調査2004」を見ても,「RFPをほとんど自社で作成している」ユーザーは16%に過ぎない。