「あなた業者なんだから,黙って仕事をすればいいんだ」――。SIベンダーとの協業が当たり前となったシステム構築,その現場で投げつけられた“心無い一言”はプロジェクトの存亡さえ脅かす。日経システム構築4月号の特集「ユーザーとベンダーの壁を崩せ」の取材を通じ,コミュニケーションの大切さ,危うさを改めて感じた。

 特集記事では,ユーザーとSIベンダーが互いの力を引き出すための「新たな役割」を探った。しかし,役割を再定義する前提として,両者のコミュニケーションを立て直すことが急務だと分かった。いくら短納期といっても,プロジェクトは数カ月から数年にわたる。「あ・うんの呼吸」までいかずとも,良好なコミュニケーションが無ければプロジェクトの推進力は鈍る。

 積水化学工業における販売管理システムの再構築を手掛けた小笹淳二氏(セキスイ・システム・センター ビジネスシステム事業部 事業推進部 マネージャ)は,「ユーザーは“分かりきったこと”はドキュメントには書かない」という。だからこそ,「ユーザーとSIベンダーは現場でコミュニケーションすることで,この“当たり前”のレベルを合わせる必要がある」と,コミュニケーションの重要性を強調する。

 しかし現実には,冒頭に示したような一言が両者の信頼関係を引き裂く。ときには,担当者が立ち直れないほどにだ。激しく打ちのめされたその状態を,スターロジック 代表取締役兼CEOの羽生章洋氏は“心が折れた”と表現する。「このタイミングで,あなたがそれを言ったらおしまい」(同氏)というキツイ言葉を浴びせられたとき,心は折れる。その一言は,ユーザーとSIベンダーのどちらからも発せられる恐れがある。

発注者のおごりが口に出る

 最初は,ユーザーが発する「心を折る一言」。そこには,「発注者であるユーザーは,受注者のSIベンダーにどんな無理難題をぶつけてもかまわない」という慢心が透けて見える。

 あるSIベンダーのSEは,プロジェクトの開発費用を見積もるに当たり,類似法やファンクション・ポイント法など複数の手法で工数を分析。これに,過去のプロジェクトの生産性などを勘案して念を入れた。それにもかかわらず,ユーザーには「根拠なんて関係ない。とにかく,もっと安くしろ」と一蹴されてしまった。